【2018年反省会(11)】コンパクトシティとしての岐阜市の問題を少しだけ洗い出してみる

【2018年反省会(11)】コンパクトシティとしての岐阜市の問題を少しだけ洗い出してみる

(※)本記事を作成するにあたり、「iQra-Channel」を大いに参考にした。

【2018年反省会】記事一覧(全26回)

岐阜市は2017年3月31日に「岐阜市立地適正化計画」というコンパクトシティ化計画を策定・公表している。2018年7月15日に施行された改正都市再生特別措置法(別名「コンパクトシティ法」)により、自治体は住民が「住むべき場所」と「そうでない場所」を明確に分けることができるようになった。そのための計画を「立地適正化計画」と呼ぶ。岐阜市は改正法に先立って、1年以上前に立地適正化計画を策定している。

コンパクトシティの中核をなすコンセプトに「居住誘導区域」がある。居住誘導区域は「住民の集まる立地のよい住むべき地域」として指定され、自治体が人口減少社会の中で「人口密度を維持する(人口を減らさない)と宣言する地域」である。全体的に人口減少が進む一方で、特定区域のインフラや生活サービスを確保し、居住を誘導することにより、人口密度を維持または増加させる。国土交通省国土審議会「資料4「国土の長期展望」中間とりまとめ(案)≪図表≫」(p36)によると、人口密度が高いほど行政コストが安くなる。さらに、人口が維持されれば不動産価格も下落せず、自治体の重要な税収である固定資産税収入も確保できる。

居住誘導区域は、鉄道駅から半径1kmおよび幹線バス路線沿線から500mの徒歩圏が望ましい。居住誘導区域は、現状の「市街化区域」をベースに設定される。市街化区域とは、都市計画法(第7条以下)に基づき指定される、都市計画区域における区域区分の一つで、「既に市街地を形成している区域や、概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」と定義される。ただし、市街化区域内であっても、災害危険区域(急傾斜地崩壊危険区域)、土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域、工業専用地域、工業地域は除外される。

ちなみに、市街化区域と対をなすのが「市街化調整区域」で、都市計画法では「市街化を抑制すべき区域」と定義される。市街化調整区域では、原則として開発行為は行わず、都市施設の整備も行われない。つまり、新たに建築物を建てたり、増築したりすることを極力抑えなければならない。とはいえ、一定規模までの農林水産業施設や、公的な施設、および公的機関による土地区画整理事業などによる整備は可能である。既存建築物を除いては、全般的に農林水産業などのための田園地帯とすることが企図されている。

岐阜市の居住誘導区域

(※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p28)より。鉄道・幹線バス路線に沿って青色に網掛けされた地域が居住誘導区域である。

居住誘導区域はさらに、「まちなか居住促進区域」と「居住促進区域」に分かれる。先ほどの青色に網掛けされた地域のうち、鉄道・幹線バス路線の主要駅を中心とした区域で、赤の網掛けがまちなか居住促進区域、青の網掛けが居住促進区域である。さらに、まちなか居住促進区域の中には「都心拠点」(赤の点線で囲まれた区域)が、居住促進区域の中には「地域生活拠点」(青の点線で囲まれた区域)がある。都心拠点とは、市域各所からの公共交通アクセスに優れ、市民に高次都市機能を提供する拠点である。また、地域生活拠点は、地域の中心として、日常的な生活サービス機能を提供する拠点を指す。

岐阜市_目指すべき都市構造

(※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p24)より。

居住誘導区域の中には、「都市機能誘導区域」がある。生活サービスの効率的な提供が図られるよう、役所、学校、商業施設、医療・福祉施設、保育施設などを集約させたエリアである。地図を見る限り、概ねまちなか居住促進区域と居住促進区域に対応している。

岐阜市の都市機能誘導区域

(※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p30)より。

できるだけ都市機能誘導区域に住民を集めるため、居住誘導区域の区域外において一定の開発行為などを行う時には、市町村長への届出義務が生じる。届出をしないと罰則が課せられる(都市再生特別措置法第88条第1、2項)。法律を知らずに区域外の土地・建物を購入した人が不測の損害を被る恐れがあるので、届出義務に関する規定については、不動産売買契約の前に重要事項説明書に記載し、購入者に対して説明する必要がある。

居住誘導区域外における開発行為等の事前届出義務

(※)iQra-Channel「岐阜市の立地適正化(コンパクトシティ)計画・居住誘導区域は?」(2018年10月23日)より。

都市機能誘導施設と届出の対象となる区域

(※)岐阜市HP「岐阜市立地適正化計画に係る届出制度について」より。

誘導施設候補一覧

(※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p45)より。

私はJR岐阜駅の周辺しか観察していないので、ここからはJR岐阜駅近辺を中心に話を進める。まず、都市機能誘導区域の設定に疑問を感じる。JR岐阜駅の北側が「①都心」、南側が「③加納」と分かれており、①都心がまちなか居住促進区域に、③加納が居住促進区域に相当する。都市機能誘導区域を含む居住誘導区域は、鉄道駅から半径1kmおよび幹線バス路線沿線から500mの徒歩圏が望ましいとすると、岐阜市で最大のJR岐阜駅を中心に都市機能誘導区域を設定しなければおかしいと感じる。行政側は住所によって管理したいだろうが、住民にとっては住所はほとんど無関係で、駅に近いかどうかが重要である。

ただし、これは岐阜市だけで起こる問題ではない。私はプロフィール欄に書いている通り、東京都の城北エリアを中心に活動している。1つ例を挙げると、JR埼京線の板橋駅は、板橋区、豊島区、北区の境目あたりに存在する。近隣の住民はこの3区のどこに住んでいようが、板橋駅の近くに住んでいるならば、やはり駅近くの店舗や施設を利用したいと考えるものだ。行政関連の施設は3区がバラバラに設置しても仕方がないものの、商業施設に関しては3区合同で計画を作ってほしい。まして、現在は分かれている東西の改札口が今年の2月24日から統合されるため、なおさら駅周辺の利便性向上を考慮してもらいたい。

話を岐阜市に戻そう。①都心の区域には岐阜市役所とメディアコスモス(図書館を含む複合文化施設)が含まれる。これらの施設はJR岐阜駅から2kmほど離れている。都市機能誘導区域の定義に合わせるために、無理やり区域を拡張したように思える。また、①都心には、前回の記事で触れた繊維問屋街や、今やすっかり寂れてしまった柳ケ瀬商店街(1966年、まだ商店街が栄えていた頃に、美川憲一が「柳ケ瀬ブルース」という曲を出した)がある。これらの商店街を何とかもう一度活性化させたいという行政側の意図が透けて見える。

日本のコンパクトシティが主に高齢社会に対応するためのものであるならば、極論すると、主要鉄道駅や幹線バス路線の主要駅を中心とした都市機能誘導区域では高齢者中心のコミュニティを形成し、それ以外の地域では自動車が使える若者や子育て世帯中心のコミュニティを形成するのが理想となる。よって、都市機能誘導区域には、高齢者が頻繁に利用する施設や店舗を集約する。ただし、都市機能誘導区域は高齢者が集中している上に多種多様な店舗や施設が必要となるため、大型の施設などは作ることができない点に注意しなければならない。その上で、前掲の「誘導施設候補一覧」の表を1つずつ見ていきたいと思う。

<医療施設>
病院はたくさんの数を作ることができないし、一定規模の敷地が必要なため、都市機能誘導区域内に設けることは困難であると考える。今後、地域医療連携をより一層推進すれば、住民が日常的に頻繁に利用するのは診療所となり、病院の利用頻度は相対的に低くなる。仮に、都市機能誘導区域内へ病院を誘致すると、それほど病状が重くない高齢者までが病院に集合してしまい、医療資源を高度な医療サービスに注入できなくなる。よって、病院は都市機能誘導区域外に設置し、都市機能誘導区域と路線バスで結ぶのを基本とするべきであろう。

これに対して、診療所と調剤薬局は地域密着型であるから、様々な診療科を都市機能誘導区域内に集積させる。厚生労働省「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」では、各都道府県の医療機関を検索することが可能である。ただし、市区町村内の医療機関を検索することはできても、自宅や駅から近い医療機関を検索するのは難しい。私が少しだけ見た限りでは、大阪府の医療情報ネットは、特定の駅や住所を起点として、そこから半径500m以内、1km以内、2km以内の医療機関を調べることができるようになっている。

そもそも、医療機能情報提供制度がどの程度利用されているのかは不明である。既に、医療機関情報とその口コミを閲覧できる民間のサイトが多数存在する。ただし、これらのサイトも、ある場所を起点とし、そこから近い医療機関を検索できるようにはなっていない。個人的には、各市区町村の担当者がGoogleアカウントを保有し、Googleマイビジネスの機能を利用して市区町村内の医療機関をGoogleマップへ一括登録すればよいのにと思う。Googleマップで口コミを書き込まれるのを嫌う医療機関はリクエストの承認を嫌うだろうが、それ以外の医療機関が承認すれば、Googleマップの使い勝手はかなり向上する。

<行政施設>
市役所と支所の関係は、病院と診療所の関係に似ている。住民、特に高齢者が頻繁に利用する機能・行政サービスは支所に集約して各地の都市機能誘導区域に設置し、それほど利用頻度が高くない機能・行政サービスを市役所に残して都市機能誘導区域外に置く。また、今後の高齢化の進展を踏まえると、市役所の直接的な機能ではないが、年金事務所やハローワークに対する高齢住民のニーズが高まると予想される。よって、年金事務所とハローワークはできるだけ各地の都市機能誘導区域に設けるのが望ましいと考える。

コミュニティセンターは、子育て世帯による利用が中心ではないかと思う。高齢者を都市機能誘導区域に、それ以外の住民は居住誘導区域に誘導するというコンパクトシティの基本的考え方に従うと、コミュニティセンターは都市機能誘導区域外に設置した方がよい。ただし、将来的に高齢者が増加すれば、生涯学習などに対するニーズも増える。とはいえ、生涯学習などに参加できる高齢者は比較的健康的な人が多いに違いない。このような高齢者は、コミュニティセンターが都市機能誘導区域から多少離れていても、バスなどで通うだろう。

<福祉施設>
ここで言う福祉施設とは介護施設を指している。しかし、そもそも表で列挙されている施設が全てではない。私は介護分野に詳しくはないのだが、豊島区「在宅医療・介護事業者情報検索システム」によれば、次のような事業所が存在している。

【介護サービスの入口】
居宅介護支援事業所(ケアプランの作成)、地域包括支援センター(予防プラン作成)

【在宅介護】
訪問介護事業所、訪問看護事業所、訪問入浴事業所、訪問リハビリテーション事業所、デイサービス事業所、デイケア事業所

【短期入所施設(ショートステイ)】
短期入所生活介護事業所、短期入所療養介護事業所

【自宅以外で介護を受けながら生活する】
特定施設入居者生活介護事業者(介護サービス付有料老人ホームなど)

【施設入所】
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設

【地域密着型】
夜間対応型訪問介護事業所、認知症対応型通所介護事業所、小規模多機能型居宅介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所、地域密着型通所介護事業所

介護事業所の中には、1つの事業所で複数の機能を合わせ持つものもある。さらに、公益社団法人全国老人福祉施設協議会のHPによると、老人福祉法第5条の3に老人福祉施設として、老人デイサービスセンター、老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、老人福祉センター、老人介護支援センターが定義されている。

LIFULL介護「【違いを表で確認】老人ホーム・介護施設の種類、それぞれの特徴」では、民間の施設も紹介されている。

【主に要介護状態の方を対象とした施設】
介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、グループホーム

【主に自立状態の方を対象とした施設】
サービス付き高齢者住宅(サ高住)、健康型有料老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅、高齢者向け優良賃貸住宅、シニア向け分譲マンション

今後高齢者が増加し、介護ニーズなどが多様化すると、介護事業所や各種施設の新設・再編が行われる可能性がある。ただ、基本的な考え方として、鉄道・幹線バス路線の主要駅から、在宅、通所、居住の順に設置されることになるだろう。本来の定義に従えば、鉄道駅(1km)および幹線バス路線沿線(500m)の徒歩圏が都市機能誘導区域であるから、それほど面積は広くない。都市機能誘導区域内は在宅、通所関連の施設でいっぱいになり、例えば特別養護老人ホームなどは都市機能誘導区域外に設置されるかもしれない。これらの施設を建設すると、前述の開発・建設等行為に該当し、届出義務が発生する。許可や認可ではないから手続きは煩雑ではないだろうが、簡単には建設できない点に留意しなければならない。

JR岐阜駅の近くに、「ジョイフル岐阜駅」という複合施設が今年の3月にオープンする。特別養護老人ホーム、介護サービス付有料老人ホーム、ショートステイホーム、サービス付き高齢者住宅、一般共同賃貸住宅、地域交流センターなどが含まれる。先ほど述べた基本的な考え方によると、要介護度がバラバラの高齢者を主要駅近辺に集めるのはあまり適切ではないと感じる。高齢者の要介護度が上がるほど、施設側の運営費用は重くなる。ジョイフル岐阜駅は一等地にあるから、特別養護老人ホームやショートステイホームのように介護保険で収入がほぼ決まる施設は、賃料の高さにも苦しむだろう。要介護度が高い高齢者を対象とした公的施設は、駅からやや離れた土地代の安いエリアを中心とするべきではないかと考える。

<子育て支援施設>
これも前掲の表に書かれているものが全てではない。児童福祉施設は児童福祉法で規定されており、助産施設(第36条)、乳児院(第37条)、母子生活支援施設(第38条)、保育所(第39条)、認定子ども園(第39条の2)、児童厚生施設(児童館など、第40条)、児童養護施設(第41条)、障害児入所施設(第42条)、自動発達支援センター(第43条)、児童心理治療施設(第43条の2)、児童自立支援施設(第44条)、児童家庭支援センター(第44条の2)がある。また、児童福祉に関する機関として、港区での建設が話題になった児童相談所もある。

コンパクトシティの概念に従えば、子育て世帯の住居は都市機能誘導区域外の居住誘導区域が中心となる。とはいえ、岐阜市のような完全なる自動車社会では、自動車でどこにでも行けるため、子育て世帯が特定地域に集合するインセンティブが低い。都市機能誘導区域に移動した高齢者に対する行政サービスを充実させると、その反動として子育て世帯向けの支援が減少する。子育て世帯が市内に点在し、共働き世帯が増え、高齢者を含むコミュニティの力が弱くなり、さらに離婚率の上昇で母子家庭が増加するとなれば、本来は公的資源への期待が高まる。コンパクトシティが目指す行政コストの減少とは逆の動きが想定される。

<教育文化施設>
学校は今さら移動させることがほぼ不可能である。地区によって通う学校が決まる公立小中学校に関しては、移動による生徒(とその家族)への影響が大きすぎる。それ以外の学校にしても、移設期間中は生徒や学生に混乱をもたらす。大規模な中央図書館は利用頻度が低いから、都市機能誘導区域内に持ってくる必要はない。前出のメディアコスモスは、岐阜市の定義では都市機能誘導区域内にあるが、JR岐阜駅から約2km離れている。私はこのぐらいの距離感でよいと思う。また、広大な敷地を要する博物館・美術館も、市内に2~3あれば十分である。他方、住民が気軽に利用できる図書館の分館は、都市機能誘導区域内に設ける。

<商業施設>
商業施設については、大規模小売店舗立地法と商店街を意識しているため、上表のような区分になっている。しかし、これはあくまでも行政側の目線であって、住民が意識するのは、近隣エリアで生活に必要な商品やサービスが揃うかどうかである。生活の基本中の基本は衣食住である。衣に関しては、アパレルショップ、アクセサリーショップ、クリーニング店などがほしい。食に関しては、スーパー、飲食店、カフェ、惣菜店などがほしい。住に関しては、不動産会社、リフォーム店、水回り修理店、家事代行サービス店、家電販売店、家具販売店、日用雑貨店などがほしい。もちろん、コンビニやドラッグストアも必要である。その他生活に必要なサービス業としては、美容室・理髪店、マッサージ店、それから携帯電話ショップなどがある。

上記の店舗のうち、マッサージ店のように必ず対面でなければサービスを提供できない業態を除けば、大半の商品はインターネットで購入することが可能である。だから、都市機能誘導区域内に中途半端な広さの店舗を増やすよりも、区域外に大型店舗を作って、そこから自宅まで配達してもらった方が効率的かもしれない。岐阜市立地適正化計画「第6章 数値目標の設定と進行管理」を読むと、目標達成年度は2035年に設定されている。現在の50歳前後の人たちがちょうど高齢者の仲間入りをする年である。彼らならば、今の高齢者と違って、インターネットを自由に使いこなしているだろう。なお、区域外の大型店舗には、郊外に住む子育て世帯が自動車で来店してもよい。もちろん、子育て世帯がネット通販を使ってもよい。

見落とされているのが、日常生活のことを色々と相談できる士業である。高齢者が増えると相続の問題も増えるため、弁護士や税理士ヘのニーズが高まる。また、上表で全く触れられていないが、生活する上であると望ましいのが娯楽施設である。地方都市の中心的な娯楽と言えばパチンコである。よくも悪くも、パチンコは今後も残るだろう。それ以外に、高齢者向けに進化した娯楽施設が現れるに違いない。現に、カラオケ店やゲームセンターは高齢者が集まる場となっている。前述の博物館や美術館は市内にいくつも作ることができないものの、ミニシアターや劇場などはビジネスとして成り立つならばあってもよい。高齢者向けのネットカフェなどもできるかもしれない。さらに、お金を使わない娯楽施設として、公園の存在も重要である。

<金融施設>
前回の記事で書いたように、もう少し銀行のATMは増やしてほしい。公的年金があてにならない時代になると、資産運用に対する高齢者の関心が高まる。銀行でも投資信託は扱っており、ネットでも株式の運用や投資信託・iDeCoの購入ができるとはいえ、最も資産運用のノウハウが高い従来型の証券会社の店舗を頼りにする高齢者は依然として多いのではないかと考える。また、ここでも1つ見落とされているのが保険である。これからは高齢者をターゲットとした保険がどっと増える。「ほけんの窓口」の高齢者向けバージョンが必要となるだろう。

ここからはさらに切実な問題に触れたいと思う。そもそも、子育ての間は居住誘導区域をはじめとする郊外に住み、高齢者になったら都市機能誘導区域に移り住むことが現実的に可能かという問題である。不動産NAVI「コンパクトシティとは?富山・青森の事例からわかる失敗と成功例とメリットデメリット」(2017年1月31日)では青森市の失敗要因が述べられている。青森市は、アウターに住む高齢者に持ち家を売却してもらい、その資金でミッドやインナーの住宅購入を促す構想を練っていた。しかし、アウターの不動産価格は安いため、売却資金では不動産価格が高いインナーの住宅を買うことができず、高齢者の移住が進まなかった。

以前の記事「『終わりなき「対テロ戦争」(『世界』2016年1月号)』」では、都道府県の枠を超えて、大都市への人口集中を解決するための簡単な試案を示してみた。ただ、この記事で大都市からの移動を想定しているのは、主に結婚前の若者である。結婚して子どもができると、保育園や幼稚園、学校の立地に制約されて、転居のハードルが上がる。そしてそのまま高齢者となれば、住み慣れた街を離れることにかなりの心理的抵抗を感じる。仮に住居を移すとしても、青森市の事例のように新たに住居を購入することは難しく、賃貸物件に入ることになるだろう。ところが、高齢者を受け入れてくる賃貸物件はまだまだ少ないのが現状である。

もう1つ仮の話をすれば、もし高齢者が都市機能誘導区域に移住したとして、前述の介護施設や商業施設が増加した場合に、誰がその仕事をするのかという問題も生じる。一定規模の製造業、金融機関、情報通信業などでは、階層の多いピラミッド型の組織が見られ、年功制によって加齢に伴う賃金上昇がまだ期待できる。一方、介護施設や商業施設に勤めると、出発点の給与が低い上に、ピラミッドの階層が少なく、あまり賃金上昇を見込めない(岐阜で介護職に就いている私の友人は、20年近く介護の仕事をしているのに、現在の給与は大卒初任給程度までしか上がっていないと話していた)。さらに、これらの施設は多くの非正規職員によって支えられている。若者がこうした仕事に就いた場合、将来の人生設計を立てるのは難しい。

以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で、典型的なピラミッド組織から外れた40代のミドルは新たなピラミッド組織に転職し、さらにそのピラミッド組織から外れた60代のシニアは再び別のピラミッド組織に転職する時代になるという私見を述べた。ただし、現実問題として、新たなピラミッド組織はどの産業で生まれるのかについてまでは考察していなかった。

十分な解ではないものの、都市機能誘導区域内の介護施設や商業施設の仕事を60代以上のシニアが中心となったピラミッド組織が担うという手が考えられる。給与は大幅に下がるだろうし、ピラミッドの階層が少ないため、昇給もあまり望めない。前掲の記事で私が想定していたような、80歳、90歳まで昇給の恩恵を受けながら仕事を続けることは無理があるかもしれない。しかし、少なくとも警備や清掃の仕事で日銭を稼ぐよりは仕事が安定するに違いない。また、顧客である高齢者のニーズは、同じ高齢者の方が理解しやすいという利点もある。

仮に都市機能誘導区域へ高齢者を移すとしても、区域内の住民が全て高齢者になるわけではない。元々その区域に住んでいた若者や子育て世帯はそのまま残るだろうし、移住してきた高齢者と一緒に、その子ども夫婦も介護のために引っ越してくるかもしれない。また、前述のような都市機能、特に商業施設が充実してくると街の魅力が上がるので、各地から若者が集まって来る可能性もある。JR岐阜駅は岐阜市で最も大きな駅であるから、その可能性が一層高いだろう。岐阜市の2035年における65歳以上の人口割合は33.0%と推計されているが、都市機能誘導区域の高齢者が増加したとしても、区域内の高齢化率はせいぜい40%強にしかならないような気がする。残りの多くは65歳未満の生産年齢人口である。

冒頭で述べたように、コンパクトシティが職住近接を目指すならば、彼らが就労できる場が存在しなければならない。高齢者と一緒に移り住んできた子ども夫婦は、自家用車で元の職場に通い続けるかもしれない。一方、それ以外の若者に対しては、可能な限り正社員として長期間働くことができる企業が必要である。私が理想とする年功序列制を採用し、社員が将来の昇給を期待して人生設計を立てられるような重層型のピラミッド組織が望ましい。最も実現可能性が高いのは伝統的な製造業であるが、街中に後から工場を建設すると、近隣住民から騒音や臭いなどへの苦情が出やすい。そのため、製造業以外でこのようなピラミッド構造を実現できる産業を、都市機能誘導区域内またはその近辺に開発することが求められる。

最後に元も子もない話を1つする。実は、電気自動車と自動運転が普及すると、わざわざコンパクトシティにする必要はないのではないかという話である。高齢者が電気自動車を保有することが難しければ、カーシェアリングサービスを充実させればよい。岐阜市を含む地方都市が現在の行政コストをどのように計算し、コンパクトシティの実現に必要な追加費用と、反対に長期的に削減される行政コストをどうやって見積もっているのかは解らない。高齢者を行政の意向で都市機能誘導区域に移住させるという共産主義的な手法を取るよりも、電気自動車の購入に補助金を出した方が、実は行政コストを節約できるかもしれない。

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