【2018年反省会(4)】閉鎖病棟とはどういうところか?
- 2019.01.26
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【2018年反省会】記事一覧(全26回)
以前の記事「【精神科】閉鎖病棟とはどういうところか?【入院】」で書いたように、2月の下旬から3月にかけて1か月ほど精神科単科の病院に入院した。X社で収録し直したビジネス実務法務検定と中小企業診断士の経営法務の仕事が忙しかったのと、他の案件の納品が続いていたことに加え、X社との報酬に関する交渉が不調に終わった影響もあって、2月末はかなり体調が悪かった。精神疾患が悪化したというのもあるが、そもそも2015年から2017年にかけて働きすぎであった。医師からは過労も重なっているから、しばらく休息した方がよいと助言された。
私はフリーランスなので、顧客企業での会議や研修などがない場合は、基本的にはどこでも仕事ができる。ただし、双極性障害を発症した当初から過眠の傾向があり、自宅にいるとすぐに寝てしまう。元々はロングスリーパーではないのに、発症後は1日10時間以上の睡眠を1か月ぐらい続けることも可能になった(初期の頃は実際にそういうことが多かった)。だから、私の仕事場は主に近所のカフェである。ところが、これもまた困ったことに、1つの仕事を同じ場所で継続できるのは2~3時間が限界になってしまった。2~3時間ごとにこまめに休憩を取り、場所を変えて別の仕事をしないと集中力が持たない。これが病気のせいなのか、歳を取ったせいなのか、自由度の高いフリーランスという仕事をしているせいなのかは、自分でもよく解らない。
独立した当初は、1日研修の仕事も結構やらせていただいていた。しかし、集中力が続かなくて顧客企業に迷惑をかけてしまう可能性があるので、途中から1日研修の仕事はほとんど引き受けなくなった。私がやる研修・セミナーは、長くても半日というものが大半である。また、前職のベンチャー企業にいた時は、大企業向けの経営コンサルティングに従事しており、顧客企業のオフィスに数か月間常駐して、1つのプロジェクトに全ての時間を注いでいた。だが、独立後はこのような働き方をすることも難しくなった。中小企業診断士のいいところは、顧客が中小企業であるから、大規模なコンサルティング案件で1つの企業に缶詰めになることもないし、1日研修をオーダーされることもまずないという点である。複数の仕事を同時に進め、自分の裁量で比較的自由に仕事を切り替えることができる。だから、私の性質によく合っている。
とはいえ、2015年から2017年の3年間は仕事を抱えすぎた。前述のように、1日の間に何度も休憩を取り、その度に仕事を変えながら働いていた。だが、私の場合、1日の間に働くことができる時間は、合算してもせいぜい8~9時間にすぎない。昔は12時間労働も平気だったし、徹夜することも多かったのに、加齢と病気の影響で長い時間働けなくなってしまった。問題は、1日8~9時間程度の仕事量では、引き受けた案件を全て消化できないことであった。そのため、土日も働く必要があった。X社の資格講座のレジュメはほとんど土日に作成している。1週間の間に休むことができるのは半日ぐらいしかなった。1日平均8.5時間仕事をしているとして、1週間に6.5日働けば、年間で8.5時間×6.5日×52週=2,900時間近くなる。
加えて、私は本を年間200冊以上読み、ブログを毎年50万字以上書いていた。本を読んだりブログを書いたりするのは、基礎的な思考力と文章力を鍛えるためであった。これらに費やした時間も合わせると、年間の活動時間は4,000時間ぐらいになったと思う(2017年だけは、8月の1か月間を入院と休息にあてたので、活動時間は少し短い)。最後の方は、朝4時頃に起床してすぐに自宅のPCでメール対応をし、朝食と入浴を済ませた後はずっと外出をして、夜8時過ぎに帰宅し、夕食をとった直後に就寝するという生活を送っていた。こんなことをしていれば、さすがに医師からも過労だと言われる。3月に入院した病院での生活については、冒頭に掲載した記事でまとめた。以下では、その記事に書ききれなかったことを述べたいと思う。
まず、精神科への入院にはいくつかの形態がある。
(1)任意入院
医師が治療のために必要と診断した場合に、患者の同意に基づいて行われる入院。ただし、72時間に限り、精神保健指定医の判断により退院を制限されることがある。”任意”であるため、患者が退院を希望すればいつでも退院することが可能である。極端なことを言えば、医師がいない夜中に急に退院を要求してもよい。とはいえ、実際には、医師が患者の病状を見ながら、両者が相談して退院日を決定することが多い。また、夜中に退院したいと言っても、医師が急いで対応してくれるとは限らず、医師が来る翌日まで待ってほしいと看護師に説得されることもある。よって、患者が完全に自由に退院日時を決められるとまでは言い切れない。
(2)医療保護入院
患者の同意がなくても、精神保健指定医が入院の必要性を認め、患者の家族(配偶者、父母〔患者が未成年の場合は両親が望ましい〕、祖父母、子、孫、兄弟姉妹)または後見人、保佐人、その他家庭裁判所が選任した扶養義務者のうち、いずれかの者が入院に同意した場合に実施される入院。患者に家族などがいない場合、あるいは家族などの全員が意思を表示することができない場合で、精神保健指定医が入院の必要性を認めた時には、患者の居住地の市区町村長が同意することにより医療保護入院となるケースもある。
(3)応急入院
患者本人または保護者・扶養義務者の同意がなくても、精神保健指定医が緊急の入院が必要と認めた時、72時間を限度として行われる入院。
(4)措置入院
自傷他害の恐れがある(自殺や自傷の可能性がある、または他人に暴力を振るったり物を壊したりするなど、他人に危害を加え他人との関係を著しく損なう可能性がある)場合で、知事の診察命令による2人以上の精神保健指定医の診察の結果が一致して入院が必要と認められた場合、知事の決定によって行われる入院。
(5)緊急措置入院
自傷他害の恐れがある場合で、措置入院の手続きが取れず、急速を要する時、精神保健指定医1人の診察の結果に基づき、知事の決定によって72時間を限度に行われる入院。
任意入院以外の4形態については、患者の同意がなくても実行される入院であるから、強制入院と呼ばれることがある。また、応急入院や緊急措置入院であっても、72時間を超えれば退院できるわけではなく、応急入院中に家族などの同意を取りつけて医療保護入院に切り替えたり、緊急措置入院から措置入院に移行したりするのが通常である。強制入院の場合は、患者がいくら自分から退院したいと要求しても、少なくとも医師の許可が下りない限りは絶対に退院することができない。現実的には、入院患者の大半は任意入院であるのだが、強制入院という形態があることが、精神科は怖いという世間的なイメージを醸成していると思う。
私の入院は任意入院であった。ただ、入院前の外来診察の際に、医師からは「入院までの間、絶対に自殺しないと約束できますか?」と言われた。この約束に同意することで、今回の入院が任意入院であることを最終確認する意味があったのだろう。また、万が一自殺未遂をした場合は、任意入院ではなく強制入院になると牽制する狙いもあったと考えられる。
閉鎖病棟とは、病棟内は基本的に自由に移動できるものの、病棟の出入り口の扉が施錠されており、医師や看護師の許可がないと病棟外に出ることができない病棟のことである。外部から見ると、完全に閉ざされた空間であるため、これもまた精神科=怖いというイメージにつながっているに違いない。ただし、精神科が閉鎖病棟になっているのはやむを得ないことである。
患者の中には、勝手に病棟外に出て行ってしまう可能性がある人もいる。また、精神科には認知症を併発している高齢者もおり、徘徊の恐れもある。病棟外に勝手に出ていくだけならまだしも、他人に暴力を振るうなどしてトラブルに発展するケースも考えられる。もちろん、精神科以外の診療科であっても、精神的に不安定な患者が衝動的な行動に出ることはあり得る。ただし、精神病の患者はその可能性がより高く、誰がいつ何時そのような行動を取るか予測できないので、一律で外出を制限するために閉鎖病棟になっている。とはいえ、私が入院していた病院では、閉鎖病棟という処遇に反発して、無理矢理外に出ようとするような患者は皆無であった。
冒頭に掲載した記事でも書いた通り、精神科に入院しても、投薬以外に何か特別な治療を受けるわけではなく、日中はほとんど何もすることがない。1日中ベッドに横になっていると退屈であるから、私を含む患者はよく廊下を散歩していた。また、デイルームで塗り絵をしている人も多かった。散歩や塗り絵をしている間に他の患者と談笑し、気分転換をしているようであった。ただ、私は他の患者と仲良くなるつもりはあまりなかったし、絵が苦手で塗り絵が全くできないという致命的な欠陥があった。そのため、自宅から持ち込んだ本をひたすら読んでいた。今思えば、入院中に本を大量に読むことができたくらいだから、この時はまだ元気な方だったのだろう。
精神科の病棟に特有な部屋として、保護室というものがある。閉鎖病棟の中でも、さらに隔離された部屋である。自殺未遂をした人や希死念慮が著しく強い人、または他人に暴力を振るったり、暴言を吐いたり、物を壊したりするなどして、他の患者や医療スタッフとの関係性を著しく損なう恐れがある人は、保護室に入る。病状が落ち着いた後で、一般の部屋に移動する。保護室の運用は病院によってまちまちだと思うが、私が入院していた病院の保護室は次のような感じだった(入院当初は保護室におり、その後一般の部屋に移った人から話を聞いた)。
まず、保護室の構造は、拘置所に似ている。日産のカルロス・ゴーン氏が逮捕された際に、東京拘置所の様子がニュースで紹介されたが、あの部屋の作りに近い。いや、正確に言えば、東京拘置所よりも質素である。東京拘置所の床は畳である一方で、保護室の床はコンクリートであり、そこに布団が敷いてあるだけである。東京拘置所には本を読むための机があるのに対し、保護室には机すらない。部屋の中に洗面台とトイレがある点は共通しているものの、保護室には監視カメラがついており、トイレを済ませて流してほしい時には、トイレの横のボタンを押し、監視カメラに向かってトイレを流してくださいとお願いしなければならない。食事の時間になると、保護室の扉の小窓を通して、段ボール箱に乗せられた食事が運ばれてくる。
さすがに個々の保護室に風呂を設置することは難しいためか、風呂だけは他の患者と同じように入る。同じように入ると言っても、他の患者が全員入り終わった後で、保護室の患者が看護師に見守られながら入っていた。また、入院中はほぼ毎日掃除のスタッフがベッドの周りを清掃してくれる。一般の部屋には掃除のスタッフが普通に入ってくるのに対し、保護室に掃除のスタッフが入る時には、必ず看護師がそばについていた。
率直に言って、私がいた病院の保護室の運用はかなり厳しい方だろうと思う。昨今は患者の人権擁護を求める声が強まっており、このような運用に対しては批判的な意見もあるに違いない。病棟内の公衆電話の横には、患者の処遇に関する相談窓口や精神医療人権センターの電話番号が掲載されている。保護室内の患者は自由に電話することができないものの、患者の家族がこれらの窓口に電話して処遇改善を訴えることは可能である。私は入院中に、おそらく医療保護入院で入ってきた患者の家族が保護室の内部を見て、「自分の家族をこんなところに入れるわけにはいかない」などと医師と揉めていた様子を目撃したことがある。
私はあまり人権という言葉を安易に使いたくないのだが、保護室の患者には人権があるという点は認めよう。だが、人間が皆人権を有しており、その価値が同等であるとしたら、保護室の患者の人権を守ることにも、その他大勢の患者や医療スタッフの人権を守ることにも価値があるはずだ。万が一、保護室の患者が他の患者に暴力を振るって怪我をさせた場合には傷害事件へと発展してしまい、誰も得をしない。まず、被害者は精神疾患に加えて身体的な痛みを伴う。傷害がトラウマとなって、元々の精神疾患が悪化する可能性もある。
加害者は被害者との間で示談が成立すれば起訴猶予になるものの、(前科ではなく)前歴というものがつき、次に同様の事件を起こした際にかなり不利になる。もし示談が成立しなければ、起訴されることもある。精神科に入院していたという事実をもって、弁護士は精神鑑定に回すだろう。精神鑑定は非常に時間がかかるし、鑑定中の処遇は保護室よりも悪い。だから、辛い思いをするのは被害者だけではなく、加害者も同じである。病院としても、院内で傷害事件が起きたことがマスコミにリークされたら、信用はがた落ちになる。ただでさえ精神科に対する世間の印象はあまりよくないのに、あの病院では傷害事件が起きるといった話が広まれば、誰もその病院に入院しなくなるだろう。保護室は色んな人を守るために存在しているのである。
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