精神障害者雇用の3つのポイント~通常の採用準備・面接・定着支援と比較して

精神障害者雇用の3つのポイント~通常の採用準備・面接・定着支援と比較して
 

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「障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」により、社員数が一定数以上の規模の事業主は、社員に占める身体障害者、知的障害者、精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務を負う。民間企業の法定雇用率は2.2%であり、社員を45.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならない(社員数に法定雇用率を掛け、小数点以下を切り捨てた数字が雇用する必要のある障害者の人数となる)。なお、今年(2021年)3月1日から法定雇用率が2.3%に引き上げられるため、対象となる事業主の範囲は43.5人以上に広がる。社員数が43.5人以上45.5人未満の事業主には、新たに障害者雇用の義務が生じる。

(※)参考までに、特殊法人、独立行政法人、国・地方公共団体の法定雇用率は2.5%、都道府県などの教育委員会の法定雇用率は2.4%である。3月1日以降、法定雇用率はそれぞれ2.6%、2.5%に引き上げられる。

障害者を雇用する上では、作業施設・設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理が求められ、一般の雇用に比べて経済的負担を伴うことが多い。そこで、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りながら、障害者雇用の水準を高めることを目的として、「障害者雇用納付金制度」が設けられている。

具体的には、まずは法定雇用率が未達成の企業のうち、常用労働者100人超の企業から、障害者雇用納付金(未達成の人数×50,000円)を毎月徴収する。この納付金を原資として、法定雇用率を達成している企業に対し、障害者雇用調整金を支給する。常用労働者100人超の企業の場合は、法定雇用率を上回る人数×27,000円が毎月給付される。常用労働者100人以下の企業に関しては、障害者を4%または6人のいずれか多い数を超え雇用している場合に給付対象となり、障害者1人あたり毎月21,000円が給付される。

(※)他にも特例調整金、特例報奨金、特例給付金の制度がある。詳細は厚生労働省HPを参照。

障害者を雇用するメリットとしては、第一には障害者雇用納付金の徴収を回避し、さらに法定雇用率を上回る雇用を達成すれば障害者雇用調整金が受けられるという点が挙げられる。ただし、これは法令遵守という最低限のラインをクリアしたにすぎない。一歩進んでいる企業は、ダイバーシティ(多様性)の実現やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成を通じて社会的責任を果たし、企業のイメージアップを狙うことだろう。

個人的には、たとえそこまで深遠なゴールを追求しなくても、障害者雇用の取り組みを通じて、「働きやすい職場」が実現されることが最大のメリットではないかと考える。前述のように、障害者を雇用すると、職場は環境面や人事制度面で特別の配慮を払うことになる。元々は障害者のために行った配慮を、職場内の公平感を保つことを目的に、一般の社員に対しても推し広げていく。そうすれば、あらゆる社員にとって職場が働きやすいものとなり、社員満足度が向上する。

例えば、知的障害がある社員に対し、文章の理解が苦手であるという特性に配慮して、イラストを使って業務手順を指示するようにしたとしよう。そのやり方は、知的障害者だけでなく、実は一般の社員にとっても理解しやすいものかもしれない。知的障害者の雇用をきっかけに社内の業務手順書やマニュアルが見直され、その結果として業務上のミスが減少する可能性もある。

ADHD(多動性・注意欠陥障害)のような発達障害がある社員に対し、業務に集中しすぎた時に休憩できる簡易スペースを確保したとしよう。だが、業務負荷が高まった場合にちょっと休憩したいと思うのは一般の社員も同じである。そこで、思い切ってオフィスを改装し、休憩室を設置する。費用はかかるものの、社員の満足度が上がるとともに、勤務中に適宜休憩をはさむことでかえって業務効率が高まることも期待できる。

精神障害がある社員に対して、満員電車内で予想されるストレスに不安があり通勤が困難な場合には在宅勤務を許可したとする。それをきっかけとして、全社的に在宅勤務制度を導入してもよいだろう。小さい子どもがいる女性社員にも喜ばれるかもしれない。また、介護休暇を取得して時々実家に帰り親の介護をしなければならなかった社員が、介護休暇を消化せずに、実家で多少なりとも仕事をすることが可能になるかもしれない。

障害者雇用制度においては、2018年4月から雇用義務の対象に精神障害者も追加された。現在の精神障害者の雇用者数はおおよそ5.0万人で、全国に約400万人いると言われる精神障害者全体に占める割合は低いのが現状である。今回の記事では、精神障害者に焦点を絞り、精神障害者の採用準備、面接、定着支援におけるポイントを、一般社員の場合と比較しながら述べてみたいと思う。

(1)採用準備

「どんな仕事をしてもらう人材を、何人採用するのか?」を決めることがスタートとなる。まずは将来の経営目標を設定し、その目標を達成するための組織図を描いて、人員構成を明らかにする。例えば、現在売上高3億円の企業の営業部門が下図のような構成になっていたとしよう。3年後に売上高を4億円にまで増やすという経営目標を立て、3年後の組織図を組み立てる。

A部長は3年後には定年退職することが決まっており、B課長を部長に昇進させる。また、新規開拓を担当していたDさんは、かねてから他部署への異動を強く希望していることから、3年後にはその願いを叶えてあげる。売上拡大を計画しているため、新規開拓担当を2人から3人に増やし、今まで既存顧客のフォローを担当していたFさんとGさんの2人を、営業スキルアップも兼ねて新規開拓担当に変更する。すると、既存フォローが誰もいなくなってしまうのだが、1人は他部署からHさんを異動させることができそうである。

このように組織図を描いてみれば、新規開拓を担当する課長と、既存フォローを行う担当者はどうしても社内で調整することが難しいと判明する。よって、この2人を新たに採用しなければならない。採用ターゲットが決まったら、その具体的な人材要件を定義する。おおよその年齢、過去の経験業務なども重要であるが、最も大切なのは「我が社でそのポジションの業務を遂行するにはどんなスキルが必要か?」という能力要件である。上図では、採用ターゲットである2人について、それぞれ5つずつコアとなる能力を整理している。

精神障害者を採用する場合も、本来であれば一般の社員のケースと同様にして準備を進めたいところであるが、実際には今社員が行っている業務のうち、精神障害者に遂行可能な業務を“切り出す“のが現実的であろう。ただ、できることとできないことが比較的はっきりしている他の障害者とは異なり、精神障害者は人によってスキルに相当のばらつきがある。よって、この業務が精神障害者に向いているとなかなか言い切れないのが難しいところである。

とはいえ、知的障害者や発達障害者は精神障害を併発するケースがあり、知的障害者や発達障害者が得意とする業務に関しては、これまでの数多くの企業による実践を通じて、ある程度の知見が形成されている。よって、精神障害者の採用準備を進めるにあたっては、この知見が1つの参考情報になると思われる。

<知的障害者に向いている業務>
(※大胡田誠、関哉直人『今日からできる障害者雇用』〔弘文堂、2016年〕より)


①現業業務
・組立/物流作業補助
・作業に伴い発生する廃棄物の収集運搬

②非現業業務
・人事/総務/経理事務
・HP作成
・スタンプ押し
・名刺作成
・DM封入、販促品の発送
・文書PDF化、高速コピー、製本
・清掃、ランドリー
・事務用品/コピー用紙補充

<発達障害者に向いている仕事>
(※木津谷岳『専門キャリアカウンセラーが教えるこれからの発達障害者「雇用」』〔小学館、2018年〕より)


①アスペルガー症候群
・ルールやマニュアルがしっかりしている仕事(経理、財務、法務、コールセンター、テクニカルサポート)
・気分に左右されない論理的な仕事(プログラマ、ネットワークエンジニア)
・視覚優位が活かせる仕事(CADオペレータ、工業系デザイナー、設計士)

②ADHD
・自分の興味が活かせる仕事(編集、ディレクター、カメラマン)
・ものづくりに関わる仕事(料理人、整備士、プログラマ、アニメーター、デザイナー)
・専門分野が活かせる仕事(研究者、学者、塾講師、教員)

初めて精神障害者を雇用する企業においては、まずは上記に近い業務を社内で探し、その業務に挑戦できる人の採用を目標とするのがよいと考える。

(2)面接

採用面接では、応募者が自社の求める人材像に合致しているかどうかを明らかにする。先ほどの例では、既存フォローの営業担当者に要求する能力として、「顧客の潜在ニーズをくみ取る力」、「粘り強く提案を持ちかける力」など5つのスキルを定義した。面接では、応募者のこれまでの仕事内容を様々な角度からヒアリングし、能力の度合いを判定する。

例えば、「顧客の潜在ニーズをくみ取る力」に関しては、「お客様から『これがほしい』と言われる前に、ニーズを先取りして提案した経験はありますか?」と質問する。応募者が個別の事例を挙げ、その時に自分が実践した具体的な行動を詳細に説明できれば、能力が高いと評価できる。

一方で、「一定期間取引がなかったお客様には、こちらから電話して様子伺いのアポを入れるようにしていた」といった抽象的な説明に終始している場合は、あまりスキルが高くないと見てよい。また、年齢や経験を重ねた人であるほど、「その人自身の成果」と「チームや部門、果ては会社全体の業績」との区別がつかなくなるため要注意である。応募者が、「私がいた課では毎期営業目標を達成していた」とアピールしても、その人のマネジメントスキルが優れているとは限らない。本人が具体的に取った行動にフォーカスを当てることがポイントとなる。

能力の評価以上に、応募者の価値観が自社の価値観と合致しているかを確認することは極めて重要である。極端なことを言えば、能力面で多少問題があったとしても、入社後の人材育成で何とかカバーできる。一方で、価値観、言い換えれば業務上の重要な局面で意思決定を下す際の判断基準について齟齬があると、組織運営に支障をきたす。

例えば、自社が「ルールを守り卓越した成果を追求する」という価値観を掲げていたとしよう。能力を評価する場合と同様に、応募者のこれまでの仕事ぶりを聞き出し、応募者のものの考え方が自社の価値観にフィットしているかどうかを分析する。質問例としては、「道義的に問題がありそうな状況に直面した際、ルールを守りつつ成果を上げるために何か工夫したことはありますか?」といったものが考えられる。

ここで、「道義的に問題がありそうな状況に直面した際、ルールを守りつつ成果を上げるために“どうしますか?”」と尋ねるのは望ましくない。将来のケースを想定してどんな対応をするか聞いても、相手はおそらく教科書的な模範回答しか返してこない。判断材料となるのは、ここでもやはり応募者の過去である。

応募者の年齢が若いと、能力が十分ではなく、さらに価値観と呼べるものも本人の中にまだ醸成されていないことがある。その場合は、応募者の基本的な性格が自社に向いているかどうかを評価する。若手社員に求められる性格は、「素直さ」、「責任感」、「思いやり」といったところだろう。例えば、「お客様や上司からの意見を受けて、自分の今までの考え方を改めた経験はありますか?」といった質問を通じて、本人がどの程度素直な性格の持ち主なのかを見極める。

採用面接では、応募者に対しやみくもにたくさん質問すればよいというわけではない。まずは自社が求める能力、価値観、性格とはどのようなものなのかを整理し、応募者がその要件を満たしているかどうか、本人の過去に迫る質問をあらかじめ用意しておくことがカギである。ここまで述べてきた例も含めて、質問の一覧例を以下に示す。

精神障害者の採用面接では、上記以上のことを質問する。確認すべきは、「障害の認識」、「基礎的能力」、「支援の環境」の3つである。まず、応募者本人が自身の障害をどのように把握しているのかを説明してもらう。どういう症状が出るのか、どんな時に具合が悪くなるのか、具合が悪くなった時、あるいは悪くなる前に職場ではどんな配慮をすればよいか、といったことを尋ねる。精神科医のように専門的に回答できる必要はなく、自分なりに障害としっかり向き合っていることが観察できればよい。障害者手帳を持っているにもかかわらず、「私の病気はよくなった」、「仕事中は症状が出ることはない」などと自分をよく見せようとする人には気をつけた方がよい。

次に「基礎的能力」である。たとえ特定の業務を遂行する能力があったとしても、それ以前の問題として、社会人として継続的に働くことができなければ意味がない。規則正しい生活を送ることができているか、通勤には耐えられるか、周りの人と基本的なコミュニケーションは取れるか、といった点が評価の対象となる。

最後に「支援の環境」である。精神障害者に限らず、障害者は様々な社会的リソースを活用している。企業が障害者を雇用した後で何か問題に直面した際、自社でそれを丸ごと抱え込んでしまうと苦しくなる。社会的リソースにアクセスすることで、問題がスムーズに解決することもある。

もし、応募者が就労移行支援事業所のような支援機関を利用しているならば、その支援機関と自社が連携を取れそうか尋ねる。さらに、社会的リソースとして極めて重要なのが、応募者の家族である。応募者と家族の関係に立ち入りすぎるとプライバシー上の問題があるものの、いざという時に自社が家族と連絡が取れるかどうかは最低限確認しておきたい。

以下、精神障害者の採用面接における質問例を列記する(※刎田文記、江森智之『成功する精神障害者雇用―受入準備・採用面接・定着支援』〔第一法規、2017年〕を基に作成)。


<障害の認識>
①障害の状況
「ご自身の障害はどのような症状が出るものなのか?」
「通院・服薬は適切にできているか?」
「主治医とは何でも相談できる関係性ができているか?」
「当社から主治医に対し、情報提供などの協力を依頼しても問題ないか?」

②ストレス耐性
「どのようなケースで体調を崩しやすいか?」
「体調を崩した場合にはどのように対処しているのか?」
「今日面接を受けてどのような気分になったか?」

③必要な配慮
「通院のための休暇は必要か?」
「勤務中、こまめに休憩を取る必要があるか?」
「音や光に敏感ということはないか?」
「苦手な業務はあるか?どんな支援があると望ましいか?」
「対人関係上必要な配慮はあるか?」

<基礎的能力>
①日常生活のリズム
「3食取ることができているか?睡眠時間は確保できているか?」
「現在の1日のすごし方はどのようになっているか?」

②通勤能力
「通勤(往復)の練習はしたか?」
「その他の公共交通機関を使うことに問題はないか?」

③対人態度
「周りからの心遣いや支援に対してお礼を言うことはできるか?」
「周りからの注意や助言を素直に受け止めることができるか?」

<支援の環境>
①支援機関
「就労移行支援事業所などは利用したか?どのような訓練をしたか?」
「当社から支援機関に対し、情報提供などの協力を依頼しても問題ないか?」

②家族との関係
「ご家族は障害のことをどのように理解しているか?」
「ご家族はどのようなサポートをしてくれているか?」

(3)定着支援

社員が入社した後は、上司と本人が面談をして、業務や職場環境に馴染んでいるかをモニタリングし、問題がある場合には解決策をともに模索していく。入社直後は1~2週間に1回と頻繁に行い、毎回30分ぐらい時間をかける。入社から数か月が経過すれば、1か月に1回ほどへと頻度を落とし、1回あたり15分程度に短縮してもよいだろう。面談の中身ももちろんであるが、面談を実施することで、「上司は自分のことを見てくれている」と本人に感じてもらうことに意義がある。モチベーションにとって最大の敵となる職場の孤独は、何としてでも防がなければならない。

面談では、本人と上司の間で、仕事、対人関係、日常生活の3つについて、「できていること」と「まだまだなこと」の認識を合わせる。最初に本人の口から「できていること」と「まだまだなこと」を語ってもらい、次に上司の目から見て「できていること」と「まだまだなこと」を話すことで、両者の見解をすり合わせていく。面談の後半では、本人からの職場環境改善要望を聞き、上司としての対応を決定する。毎回面談が終わるたびに、上司は下図のような1枚メモを作成し、部下と共有すると効果的である。

精神障害者が入社した後も、上司は同じように面談を重ねる。加えて、私が推奨したいのは、「トリセツ(取扱説明書)」の普及である。プロ野球でFA宣言した選手が別の球団に移籍すると、ネット上では移籍先球団のファンが元の球団のファンに対して、「この選手の『トリセツ』を教えてくれ」とお願いするケースが見られる。「トリセツ」では、その選手の得意なことや苦手なことをはじめとして、チームに対する考え方やプライベートでの振る舞いまで事細かに語られる。

もちろん、内容自体はネット上のネタの域を出ない部分も多々あるのだが、「得意なことや苦手なことをオープンにして、組織に早く溶け込めるようにする」という発想には私も大いに賛同している。以前の記事で、私は障害者が自らの「トリセツ」を公開し、一般の人も障害者と「トリセツ」を交換して、お互いのことを尊重し支援し合える社会ができれば理想だと書いたことがある。

障害者に対しては、ややもすると「○○ができない人」というイメージが先行する。そこで、障害者が「得意なこと」を公表し、「自分にはこんなことを任せてほしい」と宣言すれば、組織内で障害者に対するポジティブなイメージが高まるに違いない。

逆に、一般の社員は、仕事とは自分の強みを発揮する場であって、簡単には周りに弱みを見せてはいけないと信じ込んでいる。しかし、障害者はその障害ゆえに色々と配慮を受けているのを目の当たりにするにつけ、本当は一般の社員にも配慮してほしい弱みがあるのに、それが障害者ほどには尊重されていないと不公平感を覚えるだろう。一般の社員の場合は、障害者とは逆に「苦手なこと」を明らかにし、「周りからこういう支援を受けたい」と打ち明ける。人は、他人の意外な困りごとには思わず手を差し伸べたくなるものである。信頼関係が極端に破綻している組織でない限り、自発的な協調関係が生まれるであろう。

参考までに、精神障害を持っている私の「トリセツ」を以下に掲載する。「トリセツ」は1人1枚に収める。そして、職場ではそれぞれの社員が皆の「トリセツ」をファイルにまとめ、いつでも参照できる場所に保管しておく。社員をより大切にする企業であれば、少しお金をかけて「トリセツ」を冊子にしてもよいかもしれない。

残念ながら、精神障害者の離職率は他の障害者よりも高く、入社して1年以内に離職する人が約半数を占めるのが実態である。これは、入社時のミスマッチと、入社後のフォロー不足が原因であると推測できる。法律が障害者雇用を要請しているからという受け身を超えて、今回の記事で書いたような採用準備、面接、定着支援を能動的に実践し、障害者雇用を職場全体の改善につなげられる企業が増えることを願っている。