【無料】組織風土診断―設問の意図(「人事サイクルの土壌」編)

【無料】組織風土診断―設問の意図(「人事サイクルの土壌」編)
 

【無料】組織風土診断

社員数50~100人程度の企業を対象とした無料の組織風土診断です。人材を育成する風土がどの程度醸成されているかを、「 人事サイクルの土壌(≒ハード)」と「 コミュニケーション(=ソフト) 」の両面から診断します。両因子のスコアが高ければ業務が顧客志向になり、社員のモチベーションも上がると仮定しています。 …

無料公開している「組織風土診断」について、各設問の意図を解説していきたいと思う。なお、診断の開発にあたっては、 元法政大学大学院政策創造研究科教授である坂本光司氏の『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズを大いに参考にした。

顧客志向の業務

我が社の社員は、お客様からの感謝の手紙によく目を通している。
顧客が感動する製品・サービスを提供する企業の下には、電話やメールだけではなく、手書きのはがきや手紙で感謝の言葉が届くことだろう。さらに言うと、顧客志向が強い企業では、単に手紙が届くだけではなく、また手紙を受け取った一部の社員だけが目を通すのではなく、多くの社員にその手紙が回覧され内容が共有されていると考える。実際、『日本でいちばん大切にしたい会社3』で紹介されている徳武産業株式会社(リハビリ靴・介護シューズの製造・販売)では、顧客からの手紙を社長が丁寧にバインダーにとじ込み、重要な部分に付箋を貼って社員に回している(坂本氏は、付箋だらけになっているそのバインダーに驚かされたという)。

我が社では、お客様からクレームが来たら全社を挙げて原因を解決している。
通常、クレームが届くとその原因を分析し、営業部門、製造部門、調達部門、物流部門、アフターサービス部門など、どの部門の業務に問題があったかを突き止める。だが、ややもすると特定の部門に責任を押しつけてしまい、その他の部門は難を逃れたと胸をなで下ろしてしまうかもしれない。顧客志向が強い企業では、クレームの原因が例えば営業部門にあったとしても、あらゆる部門が協力し合いながらその原因の除去に努めている。

我が社には、お客様を感動させるために手間暇を惜しまない仕事・業務・工程がある。
『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズで紹介されている企業は皆、1人1人の顧客=”個客”を感動させることに注力している。例えば、『日本でいちばん大切にしたい会社6』に登場する株式会社マコセエージェンシーは、それまで画一的な文面しかなかった会葬礼状を改め、亡くなった方に対する遺族の気持ちを文書化した。葬儀ごとにオリジナルの会葬礼状を作るために、社員が遺族に対してヒアリングを行うという、精神的負荷の高い仕事を敢えて行っている。また、但陽信用金庫は金融機関でありながら、健康、福祉、介護など暮らしに関するよろず相談を受け付け、移送サービスや緊急通報システムも提供している。顧客志向が強い企業は、「我が社のマニュアルにないからやりません」、「我が社のルールに反するのでできません」とは簡単には言わない。個客のニーズに合わせて、社員が創意工夫を凝らしながら柔軟に仕事を行い、1人1人にとってオリジナルの価値がある製品・サービスを創造している。

我が社では、生産性向上のための業務効率化に取り組んでいる。
顧客志向が強い企業は、顧客を感動させるために手間暇を惜しまないとはいえ、全ての仕事を一から作り上げていては採算割れする。価値の低い業務、間接業務、他の社員・部門と共通する業務など、効率化できる業務は徹底的に効率化する。そして、浮いた時間を感動創出のために費やす。おそらく、業務効率化に取り組んでいない企業はほとんどないため、この項目のスコアは多くの企業で高く出るだろう。だが、前項目のスコアも高くなければ、顧客志向が強いとは言えない。

我が社の社員は、仕事で使う作業用具を大事に扱っている。
製品・サービスを作るための作業用具が大切に扱われていなければ、それを使って生み出される製品・サービスは品質のよいものにならない。

採用

我が社では、新卒や未経験者の採用に注力している。
人材育成に注力している企業は、育成に時間がかかるとしても、新卒や未経験者を積極的に採用している。経験者の中途採用を行えば即戦力を手早く補充できるように思えるが、転職者は前の企業の価値観や組織風土を引きずっていることが多く、自社にフィットしないリスクがある。それに、中途採用ばかりするということは、他社のお金で育成された人材を使っていることに等しい。本来は自社が負担すべき人材育成への投資を体よく節約しているにすぎない。

我が社の企業説明会や採用面接は、自社での働きがいをアピールする場になっている。
企業説明会や採用面接は、応募者が自分を企業に売り込むための場であると同時に、応募者に対して自社を売り込む場でもある。業務内容を紹介するだけでなく、自社で働くとどんなやりがいが得られるか、どれほど高いモチベーションで仕事ができるかを十分に説明している企業がよい企業だと言える。その際、よいところに加えて、敢えて悪いところや苦しいところを正直に告白することも重要である。現実をありのままに伝えることで、入社後の「リアリティ・ショック」を和らげ、離職率の低下につなげることが可能となる。

我が社では、人事担当者以外の社員が採用面接を行うことが多い。
社員数が50人くらいの企業の場合、1次面接を人事担当者が行い、2次面接(最終面接)を社長が行うことが多いだろう。私の前職のベンチャー企業(組織・人事コンサルティングと教育研修サービスを提供する企業)もそうであった。しかし、人材育成に力を入れている企業では、現場社員も面接に関与する。そして、面接もたった2回で終わらせず、4回、5回と繰り返す。面接を行った全ての現場社員が、「応募者と一緒に働きたいと思うか?」、「応募者と一緒に働くイメージが湧くか?」を徹底的に議論した上で、採用の可否を決定する。

我が社の採用面接では、本人の能力だけでなく性格や人間性も重視している。
能力は入社後にトレーニングで伸ばすことができる。だが、仕事に対する価値観は変えることが難しい。よって、採用面接の場では、応募者の価値観が自社の組織風土とマッチしているかどうかを慎重に確認しなければならない。とはいえ、新卒採用を重視する場合、学生にはまだ相応の価値観が備わっていないことも十分に考えられる。新卒採用では、価値観を形成する土台となる性格や人間性に着目することが有効である。これらの要素は長きにわたって変化することが少ない。どんなに能力が高くても、また、どんなに優れた価値観を持っていても、人徳に欠け開放的・外交的でないような人は、社内で仕事を続けることが難しいだろう。

我が社では、友人、家族や親戚、学校・前職の先輩や後輩など、身近な人の応募を積極的に受け入れている。
いわゆる縁故採用を行っているかどうかである。縁故採用される人は、もし入社後に仕事が上手く行かないと自分を紹介してくれた人に迷惑がかかると思ってしまう。よって、 一般的には縁故採用は敬遠されるきらいがある。その縁故採用を敢えて前向きに行うということは、縁故採用した社員が落ちこぼれそうになっても手厚くフォローする、縁故採用した社員が活躍できるように支援する意思が企業側にあることを表している。

異動

我が社では、社員を多能工化するためにジョブローテーションを頻繁に実施している。
社員数が50人ぐらいの企業では、少ない人数で仕事を回せるように社員を多能工化する必要がある。多能工化を目指すジョブローテーションは戦略的に行わなければならない。ある部署の業務量が増えて人手が足りなくなったから、あるいは突然の欠員・休職者が出たからという理由で、人数を穴埋めするために行われるジョブローテーションは戦略的とは言えない。

我が社では、自分にとってチャレンジングな部署や役職に異動・昇進する機会が多い。
人材育成を大切にする企業は、社員の能力は無限に伸びると信じている。そして、社員の能力を高める秘訣は、社員にストレッチした目標を与えることだと考える。統率力はまだ完全ではないがプロジェクトリーダーに任命する、若手社員を育成した経験は少ないが管理職に登用する、といったことが頻繁に行われる。その際、やみくもに大きな仕事に挑戦させるのではなく、新しい仕事で求められていることは何か、その社員の現在の能力では何が足りないのか、新しい仕事を首尾よく遂行するために何を心がけるべきかについて、社員と一緒になって議論する。

我が社では、新しい部署に異動したり新しい役職に就いたりした後、引き継ぎがスムーズに行われる。
異動や昇進の後に引き継ぎがスムーズに行われるということは、普段から仕事の内容が体系化されていることを意味する。体系化とは、業務マニュアルや作業標準書が整備されていること、各種ツール、道具、設備、ITなど仕事をサポートする手段が揃っていることである。体系化がなされていない現場では、プレッシャー、混乱、不安の中で、社員がモチベーションを失ってしまう。時折、カオスの中で奮闘することが社員の成長につながると主張する人がいるが、拠りどころとなる標準・基準があるからこそ創意工夫が生まれるというものである。旅は地図があるから楽しいのであって、地図のない旅は無謀である。

我が社では、社員と会社が一緒になって各自のキャリア開発計画が作成されている。
企業は事業戦略を実行するための組織体制を考え、それぞれの社員が各ポジションの人材要件を満たすようにトレーニングを行う。だが、社員を本当に大切にする企業は、全ての物事を企業の都合だけで進めない。企業に「我が社がやりたいこと」があるように、社員にも「私がやりたいこと」がある。その両者を擦り合わせ、社員がキャリアビジョンを描く過程も重視する。時には、社員のアイデアを吸い上げて事業戦略を修正することもあるだろう。

我が社では、左遷という言葉は使われない。
左遷とはその後の復帰の見込みがないことを指す。社員を大切にする企業でも、仕事で失敗した社員が別の部署に異動させられたり、管理職を外されたりすることはある。また、優秀な女性社員が育児休暇から復帰した際に、簡単な業務に就くこともある。しかし、これらはクールダウンの期間、馴らしの期間であり、エネルギーを蓄えてもう一度活躍するための時間である。そのようにとらえられている企業では、左遷という言葉は使われない。

育成

我が社のOJTでは、教えられる側が自分で考えられるようになることを目指している。
若手社員が仕事で困ってから、その都度仕事を手伝うことはOJTではない。OJTは計画的に行う必要がある。すなわち、OJTを通じて習得を目指す業務は何か、トレーニーはどのように業務を進めるのか、トレーナーはどのようにして業務に介入するのか、トレーナーとトレーニーは訓練の成果と課題をどのように評価するのかをあらかじめ計画書にまとめておかなければならない。その上で、トレーナーはトレーニーの自主性を引き出すように工夫する。OJT=「お前、じっと立っていろ」とトレーナーが自分で全てやってしまうのはOJTではない。

我が社には、スキルシートや社内資格制度で各社員の能力レベルを把握する仕組みがある。
人材育成を行うには、ゴールとなるスキルレベルを明らかにし、それぞれの社員が今どのレベルにあるのかを見えるようにしておくことが肝心である。トヨタには有名な「星取表」がある。社員がそれぞれのスキルに対してどの程度習熟しているかを4分割した円で表す。「一人で作業ができる」なら1つ、「時間通りに作業ができる」なら2つ、「トラブル時に対応できる」なら3つ、「改善や部下指導ができる」なら4つというように、レベルによって円内を塗りつぶす。

我が社の社員は、自社製の独自のマニュアルや教科書を参照しながら仕事をしている。
社員数が50人ぐらいの企業は、人海戦術で仕事が回せるラインと仕事の仕組み化が必要なラインの間に位置している。社員数を増やし企業を成長させるには、業務をマニュアル化しなければならない。マニュアルは現場社員が自ら手を動かして作成することが大切である。外部のコンサルタントを活用する場合でも、コンサルタントの成果物をそのまま使うのではなく、原型が解らなくなるほどに社員が改訂を加える。研修についても同様であり、テキストを内製するか、外部研修のテキストを参考にオリジナルの教科書を制作する(具体的事例は川喜多喬『中小企業の人材育成作戦―創意工夫の成功事例に学べ』〔同友館、2006年〕を参照)。


我が社では、社員が能力を発揮できるように、設備やITへの投資を積極的に行っている。
社員が能力を発揮できるように環境を整えることは重要である。どんなに優れた能力を持つWebデザイナーでも、90年代のパソコンでは仕事にならない。ただし、必ずしも最新の設備やITを導入すればよいというわけではない。仕事に対する自社の知恵が詰まった設備やITに仕上げる必要がある。自社の業務を研究して、業務を能率よく遂行するための道具を数多ある選択肢の中から探し出すことが投資であるし、適切な道具が存在しなければ自ら道具を作り出すことも投資である(むしろ後者の投資の方が重要かもしれない)。他社でも容易に調達可能であるような、ありきたりの設備やITの性能で満足してしまい、それによって社員の能力が制約されてはならない。

我が社では、業務上の能力だけでなく、常識やしつけも教えている。
人材育成に注力する企業は、「そんなことは当たり前ではないか」ということもしつこく丁寧に教えている。私の前職のベンチャー企業はこの点が決定的に欠けていた。若手社員に名刺の渡し方を教えなかったため、顧客企業の担当者との名刺交換で恥をさらしたことがある(前職の名刺は横型だったのだが、相手が差し出した名刺が縦型だったためか、縦にして渡すのが常識だと勘違いし、縦に持ち替えて渡してしまった)。名刺の渡し方を知らないのは若手社員だけかと思ったら、30代の社員の中にも名刺の渡し方を知らない人がいて驚かされた。

評価

我が社では、普段から上司に業務報告をすると有益なフィードバックが得られる。
マネジャーの仕事は大きく分けて「課題遂行」と「ピープルケア」から成り立つ。本項目は課題遂行に着目したものである。有益なフィードバックは、耳が痛いことであっても部下にとって大切なことを率直に伝え、問題のリカバリと今後の成長につなげることを目指している。フィードバックは「現状の的確な認識」⇒「課題解決策の協議」という順番で行われるが、現状認識には「STARフレームワーク」が役に立つ。S=Situation(状況)、T=Task(課題〔やるべきこと〕)、A=Action(行動)、R=Result(結果)の略であり、例えば「前任者から引き継いだ顧客企業の担当者に挨拶に行く際(S)、これまでの商談記録を全て把握しておくべきだったのに(T)、それを怠ったせいで(A)、担当者からは『情報共有ができていない会社だ』と思われてしまった(R)」といった具合に、事実を具体的に特定するのに利用する。

我が社の上司は、普段から社員のモチベーションを気にかけてくれている。
本項目はピープルケアに着目したものである。部下を大切にする上司は、部下の仕事の進捗だけではなく、部下のモチベーションや健康状態にも気を配っている。仕事の進捗はアウトプットという解りやすい形で把握することができる反面、部下のやる気は顔色や会話の調子などから探るしかない。そのためには、日頃から部下のことをつぶさに観察しておく必要がある。元中日ドラゴンズ監督の落合博満氏は、コーチングとは見ることだと主張している。落合氏は毎日のグラウンド練習を必ず同じ位置から観察し、選手の微妙な動きのずれを敏感に察知していた。

コーチング―言葉と信念の魔術
落合 博満
ダイヤモンド社
2001-09-01

我が社の上司は、普段から「褒める」と「叱る」をメリハリよく使い分けている。
近年は「叱る」中心の”指導”スタイルが反省され、「褒める」中心の”支援”スタイルがよしとされる傾向がある。「叱る」中心だと部下の自己肯定感が下がり、精神疾患にかかりやすくなることは容易に理解できる。だが、心理学者のアルフレッド・アドラーは、褒められるのに慣れてしまい過度に甘やかされると神経症になるリスクが高まると分析している(以下の記事を参照)。「褒められて伸びるタイプだから褒める」、 「叱られて伸びるタイプだから叱る」 と画一的に決めつけるのではなく、褒めると叱るを状況に応じて織り交ぜられる上司がよい上司である。

【2018年反省会(15)】うつ病・双極性障害・統合失調症の違いはグレー(2)

(その1 からの続き) …

我が社の上司は、普段から部下たちに分け隔てなく接してくれる。
「分け隔てなく接する」には2つの意味がある。1つ目は、 男性社員―女性社員、若手―高齢者、日本人―外国人、健常者―障害者、正社員―非正規社員といった区別なく、平等に同じ態度で接するという意味である。もう1つは、個々の社員の能力や価値観、特性の違いをとらえ、それぞれの社員が強みを発揮し弱みをカバーできるようにするための個別の方策を一緒に考えて、チームの力を結集させるという意味での公正さである。

我が社では、挑戦した結果としての失敗で罰せられることはない。
「異動」の項目で見たように、人材育成に注力する企業では社員をチャレンジングな仕事に就かせる。よって、時には失敗して会社に損害を与えることもあるだろう。しかし、失敗によって被った損失は、本人と自社にとっての授業料だととらえ、本人を罰しないことが大切である。むしろ、失敗から得られた教訓によって、他の社員が今後同じ過ちを犯すリスクを減らしたのだから、称賛してもよいくらいである。社員を大切にする企業が社員を罰するのは、立てるべき計画を立てずに実行して失敗した場合、なすべき努力を怠って失敗した場合である。それでも、同じく「異動」の項目で見たように、閑職への異動は決して左遷ではなく、再挑戦のための切符である。