【キャッシュレス・消費者還元事業】電子マネー、Airペイで5%ポイント還元は?

【キャッシュレス・消費者還元事業】電子マネー、Airペイで5%ポイント還元は?
 

電子マネーで決済した場合のポイント還元は?

キャッシュレス・消費者還元事業は、「2019年10月1日の消費税率引上げに伴い、需要平準化対策として、キャッシュレス対応による生産性向上や消費者の利便性向上の観点も含め、消費税率引上げ後の9カ月間に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援する事業」である。補助事業の加盟店に登録されている店舗で消費者がクレジットカード、電子マネー、QRコード決済といったキャッシュレス決済を行うと、購入代金(税込み)の5%がポイント還元される(コンビニエンスストアなどのフランチャイズ店であって、中小・小規模事業者に該当する加盟店で決済をした場合は2%)。

クレジットカードで決済をした場合は、通常のポイント還元(多くの場合0.5%)に加えて5%のポイントがつくことは容易に想像できる。では、PASMOのようにポイント還元が存在しない電子マネーの場合はどうなるのか?補助事業の事務局に尋ねてみたところ、「例えば1,000円の購入代金を電子マネーで決済した場合には、5%にあたる50ポイントが即時充当され、購入代金の1,000円と相殺されて、電子マネー残高から950円が引き落とされる」という。

このことは、「キャッシュレス決済事業者登録要領」のp17にも書かれている。

本事業において補助の対象となる消費者還元の方法は、原則としてA型決済事業者が、決済額に応じたポイント又は前払式支払手段を消費者に付与する方法で行うこととする。

やむを得ず上記の原則によることができない場合には、その理由を申告し事務局の承認を得られた場合に限り、以下の方法をポイント等による消費者還元の類型として実施することができる。

①店頭での購買時に、即時利用可能なポイント・クーポン等を発行し、購買金額に当該ポイント等相当額を充当する方法。
②キャッシュレス決済手段の利用金額に応じた金額を金融機関の口座から引き落とす際に、ポイント等を発行し、当該ポイント等相当額を引き落とし金額と相殺する方法。
③少なくとも一月以内の期間毎に消費者の口座に発行したポイント等相当額を付与し、その後の決済に充当する方法。

PASMOの即時充当は上記②に該当する。ただ、事務局側は「即時キャッシュバック」という言葉を使わず、あくまでも「即時充当」という言葉にこだわった。要領にある、

①~③の方法は、ポイント等による消費者還元の一類型であるため、「キャッシュバック」「現金還元」といった消費者に誤解を与えるような表示は行わないこと。

との注意書きを受けてのことだろう。とはいえ、実際にどのような形でポイント還元がなされるかは、「それぞれの電子マネー発行会社に任せている」というのが事務局のスタンスだった。

PayPay、LINE Pay、楽天ペイなどのQRコード決済にはポイント還元がある。これに対して、Origami Payにはポイント還元がなく、代わりに決済金額が常時2%オフとなるサービスがついている。以前、Origami Payの担当者がセミナーで話をするのを聞く機会があったのだが、補助事業の加盟店でOrigami Payを使った場合には、通常の2%オフに5%のポイント還元が加わり、7%オフになるとのことだった。ただし、「『あくまでも”即時ポイント還元”であり、値引きと言ってはいけない』と事務局から釘を刺された」ことも明かしていた。

Airペイ、楽天ペイ、Coineyの場合は?

電子マネーやQRコード決済の場合は解った。問題は、Airペイや楽天ペイ、Coineyといった、複数の決済手段を扱う決済事業者である。楽天には楽天スーパーポイントがあるから、ポイント還元が受けられそうだ。事実、楽天に問い合わせてみたところ、「実店舗決済用の楽天ペイが導入されている加盟店で、消費者がQRコード決済である楽天ペイを使った場合には、楽天スーパーポイントが還元される」との回答を得た。

しかし、実店舗決済用の楽天ペイでは、電子マネーやクレジットカードで決済をすることも可能である。楽天ペイでクレジットカード決済を行った場合には、「楽天スーパーポイントで還元されるのではない。クレジットカード会社によって対応が異なる」そうだ。Airペイを運営するリクルートライフスタイル、およびCoineyの回答も同じであった。AirペイやCoineyにはそもそもポイントという概念がない。AirペイやCoineyでクレジットカード決済をした際にポイント還元が得られるかどうかは、全くのところそれぞれのカード会社に委ねられている。

キャッシュレス・消費者還元事業HPの中の「キャッシュレス決済事業者のプラン」というページでは、事務局に登録されている決済事業者と、その事業者が扱っている決済方法を検索できる。Airペイや楽天ペイ、Coineyはほとんどのクレジットカード国際ブランドに対応しているにもかかわらず、ポイント還元が実施されるかどうかはカード会社次第ということらしい。

店舗側はAirペイが決済事業者として登録されているという理由でAirペイを導入し、消費者側もAirペイが導入されているからクレジットカードで決済すればポイント還元が受けられるだろうと思っても、ポイント還元の有無は不透明である。これは今後大きな混乱を招くに違いない。事務局は「店舗側が消費者に丁寧に説明する必要がある」と主張するだろうが、ただでさえ消費税アップのことでいっぱいいっぱいになっている店舗にそこまで要求するのは酷である。

どうしてこのようなことが起きるのか?実は、補助事業の決済事業者にはA型とB型がある。

A型とは、

A型決済事業者は、消費者に対して、キャッシュレス決済手段を提供する事業者であり、キャッシュレス加盟店支援事業者又はキャッシュレス加盟店管理事業者によって補助金事務局に登録された中小・小規模事業者においてキャッシュレス決済で購買を行った消費者に対し、ポイント還元等の消費者還元を実施する事業者をいう。(p12)

のことであり、イシュア(カード発行会社)が想定されている。

B型とは、

B 型決済事業者は、中小・小規模事業者に対して、必要に応じてキャッシュレス決済手段を提供し、本事業への参加申請を受け付け、補助金事務局に登録を行う事業者をいう。(同上)

のことであり、アクワイアラ(加盟店開拓会社)が想定されている。楽天やリクルートライフスタイル、CoineyはB型の決済事業者であり、ポイント還元の主体ではない

消費者がAirペイなどで使ったクレジットカードの発行会社がA型事業者として登録されていればポイント還元があり、A型事業者として登録されていなければポイント還元がないことになる。とはいえ、自分が持っているカードの発行会社がA型決済事業者になっているかを知っている消費者などまずいないだろう。一応、補助事業のHPには、「仮登録決済事業者リスト」が掲載されており、それぞれの決済事業者がA型かB型か、あるいはA型兼B型なのかを知ることができるものの、こんなページを見ている消費者がいるとは思えない(第一、もうすぐ補助事業が始まるというのに、いつまで「仮登録」のままなのだろうか?)。

今回の混乱をめぐる根本的な問題

キャッスレス決済とは一種のインフラであり、道路や電気、ガス、水道と同じである。インフラを整える際に、その仕様を各会社に任せることなどしないだろう。政府が本気でキャッスレス社会を実現したいのであれば、一律のルールを作って、一斉に全国展開すればよい。政府が標準化のイニシアチブを握らないから、キャッシュレス決済手段が乱立して消費者を困惑させてしまう。さらに、事務局への登録も決済事業者や加盟店による手挙げ式になっているため、ポイント還元が受けられるところと受けられないところの差が出てしまい、混乱に拍車をかけている。

PayPayは決済事業者として登録されている。だが、消費者はPayPayが使える店舗だからポイント還元があると思ってPayPayを利用しても、その店舗が加盟店登録されていなければポイント還元を受けられない。こんな摩訶不思議な状態が、10月から9か月間続く。

アメリカ発のイノベーションを観察すれば解るように、イノベーションとは標準化から始まる。政府主導のデジュレスタンダードでも、市場主導のデファクトスタンダードでもよい。標準を世界展開することで、グローバル市場を一気に制覇する。その標準の上に世界各国の多様なサービスが乗ると、市場はさらに活性化し成長していく。日本は、均一性が特徴と言われながら実は多様性が先行する国家である。だから、イノベーションは苦手である。日本からイノベーションが生まれないのは、技術が不足しているからでも、大胆な構想力を持つ尖った人材がいないからでも、リスクマネーを供給する機関がないからでもない。多様性を先行させてしまうマインドという、もっと根源的な部分に本質要因がある(以前の記事でも書いた通りである)。

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なお、PASMOの例で見たように、即時充当という方法が認められるのであれば、全ての決済手段で即時充当にすればよかったのではないかとさえ思える。経済産業省が事実上の‘値引きである即時充当ではなく、わざわざポイント還元にこだわったのは、ポイントが貯まった消費者はそのポイントを使おうと次の購買行動を起こすから、それによって消費の刺激が持続するだろうという読みがあったためだと推測する。

そもそも、前回の記事で見たように、政府がキャッシュレス決済を推進する第一の理由は、現金決済インフラのコストを削減するためであった。現金決済インフラをコントロールしているのは、資金決済法を管轄する財務省である。単に現金決済インフラを効率化したいのであれば、財務省と金融機関が整備したデビッドカードを推進すればよい。ところが、今回の補助事業で主に推奨されているのは、割賦販売法が適用されるクレジット決済であり、経済産業省の管轄にあたる。つまり、課題のありかと解決手段がずれているという深刻な問題が潜んでいるわけだ。