リスクマネーほど審査が甘いという日本の中小企業金融の矛盾

リスクマネーほど審査が甘いという日本の中小企業金融の矛盾

ものづくり補助金の要件は甘い

平成24年度補正予算から始まった通称「ものづくり補助金」は、平成30年度補正予算で7年目となる。補助金の趣旨は毎年微妙に変化しているものの、大筋は「革新的な製品・サービス開発に取り組む中小企業の設備投資や試作品開発にかかる費用の一部を補助する」というものである。条件を満たせば、最大で1,000万円の補助を受けることができる。

私の周りにはものづくり補助金の申請支援をしている中小企業診断士が多いのだが、中小企業の中には「補助金が出れば試作開発をするけれど、出なければやらない」と言う経営者がいるというのだから驚きである。その程度の心構えで新製品開発を行う企業は、どんな新製品を開発しても上手く行かないに違いない。前ブログの記事「補助金目当ての計画⇒×、「事業計画を真剣に考えていたら、たまたま補助金があった」⇒○」で書いた通りである。

中小企業にとって補助金とは、株式発行、金融機関からの借入と並ぶ第三の資金調達手段である。とりわけ、金融機関からの借入に代わる資金調達と見なされる。ということは、補助金の調達にあたっては、いくら原則的に返済義務がないとはいえ、仮に補助金と同額を金融機関から借り入れたとして、その金額が返済できるような事業計画を立てるべきである。この点で、ものづくり補助金が設定した、「付加価値額年率3%以上、経常利益率年率1%以上の伸び率を他達成すること」という条件ははなはだ甘い。返済原資となる「経常利益+減価償却費」は、経常利益が年1%伸びただけでは、最高1,000万円を返済するのに十分な金額とはならないはずだ。

さらに言えば、中小企業政策における補助金の性質を踏まえると、補助金と同額を借り入れた場合を想定して事業計画を立てるだけでも不十分ではないかと思えてくる。

補助金は中小企業の「救済」ではない

前ブログの記事「補助金にふさわしいと思う中小企業の3条件」では、①事業化のハードルは高いが、事業化に成功すれば一定の市場規模が確保できるような、イノベーティブなアイデアを持っていること、②優れた技術・ノウハウなどの蓄積があること、③一時的に業績不振に陥っているが、その原因を外部環境のせいにせず、内部環境の面から自己分析していること、という3つを挙げた。だが、この3条件は不十分だと考え直すようになった。業績不振に陥っている企業がするべきことは革新的な製品・サービスの開発という博打ではなく、既存製品の売り方や売る先を変えて、何とか収益構造を改善することである。それに、業績不振の企業を対象としている時点で、補助金は救済、保護が目的であることが前提となっている。

全国民の生活を支援する福祉とは異なり、自由競争社会に生きる企業は基本的に救済する必要がない。消えゆくものは消えゆくことが健全な社会の証である。例外的に企業を救済する必然性があるのは、例えば「軽減税率対策補助金」のように、国の都合で複数税率が導入されることになり、何としても全ての企業に軽減税率対策をしてもらわなければならないようなケースに限られる。憲法に規定された生存権に基づく生活保護のことは激しくバッシングするのに、中小企業向け補助金となると、わらわらと経営者が群がってくるのには一種の気持ち悪ささえ感じる。彼らには生活保護受給者を批判する資格はないだろう。

国にとって補助金とは、法人税という形で回収する投資である。仮に中小企業の法人税率が25%として、新製品・サービスの寿命が5年だとすると、国は補助金を交付した中小企業の5年間の利益から、法人税として徴収する25%分によって投資を回収しなければならない。しかも、交付先企業の全てが新製品開発に成功するわけではない。事業化の成功率を非常に高く見積もって10分の1としよう。すると、1,000万円の補助金を交付した場合には、交付先企業に5年間で1,000万円÷25%×10倍=4億円の経常利益を上積みしてもらわないと、国は損をしてしまう。中小企業に求められるのは、そのぐらいハードルの高い革新性である。

「大化けする」新製品・サービスの開発ができる企業はごく一部に限られる。苦境に陥った企業ではなく、一定の余力があり、将来の見通しをきちんと立てられる企業に限定される。だから、ものづくり補助金の審査項目には、「財務基盤に問題がないこと」という項目が入っている。たまに、「財務基盤の弱い中小企業に、こんな細かい事業計画が作れるわけがない」と声を荒げる中小企業経営者がいるが、補助金が高いリターンを必要とするリスクマネーであるという性質からすれば、そのような中小企業はそもそもお呼びでないのだ。

経済学と経営学の視点は異なる

政府は、補助金という財政出動によって消費の乗数効果が見込めるから、補助金を交付すれば経済が活性化したことになると言いたいようである。ある時、ものづくり補助金の関係者から、「1,000億円の予算で2兆円の経済効果があった」と聞いたことがある。別の関係者からは、「1,000億円の予算がついても、実際に使われるのは7割ぐらい」という話も聞いている。ということは、700億円で2兆円の経済効果があったわけで、乗数効果は1-(700億円÷2兆円)=96.5%(!)という計算になる(補助金のほとんどは補助金交付先企業、その発注先企業、さらにその発注先企業・・・へと次々に回ったことを意味する)。

しかし、経営の視点から見れば、投資額を上回るリターンが得られたかどうかで投資の成否を判断するのが筋であろう。経済学的には正しくても、経営学的には正しくないということはよくある。経済学は、完全市場におけるプレイヤーの同質化によって、最終的には市場全体の利益がゼロになると考えるのに対し、経済学はいかに不完全市場を作り、他のプレイヤーと差別化して利益を確保するかを考える。また、経済学は静的均衡を志向する一方で、経営学はイノベーションという動的な力によって市場・産業構造が変化することを歓迎する。

審査員は「革新性」を本当に見ているのか?

では、ものづくり補助金において、申請企業の事業計画が高い革新性を有しているかどうかを綿密に審査しているかと言うと、かなり怪しい。関係者の話によれば、事業計画の読み方について特段トレーニングを受けたことがない人たちが、1つの事業計画につき30分程度で審査を行っているらしい。アメリカのベンチャーキャピタリストが投資先候補企業に何度も出向いて経営者と面談し、納得するまで事業計画の修正を迫るのとは大違いである。

もっとも、ベンチャーキャピタルが求めているのは世界を一新するようなイノベーションであり、ものづくり補助金はあくまでも「革新性=他社が既にやっていてもよいが、自社にとっては初めての試み」を要求するにとどまるから、単純には比較できない。イノベーションの成功率は1,000分の1とも言われるのに対し、先ほど新製品開発の成功率を高く見積もって10分の1としたのもそのためである。しかし、前述のような高いリターンが見込める事業計画になっているかを真剣に審査しているかどうかには疑問符がつくと言わざるを得ない。

日本政策金融公庫の融資もリスクマネーである

中小企業にとって、補助金の次に強い味方となるのが、日本政策金融公庫という政府系の金融機関である。通常の金融機関よりも低利で借りることができるし、経営革新計画の認定を受けているとさらに金利が下がったりする。だが、日本政策金融公庫は、一般の金融機関が融資は難しいと判断した企業のための金融機関である。そのような企業に貸し出す資金はリスクマネーと言えるだろう。しかも、リスクマネーでありながら、低利ゆえに絶対に回収しなければならないという非常に難しい課題を抱えている。公的金融機関なのでどんな企業にも貸し出すというわけではない。民間の視点ではリスクが高すぎて貸し出しが困難と思える企業でも、日本政策金融公庫が見れば回収可能と判断できるような独自の角度から厳しく審査していると予想される。

ところが、どうもそうなっていないのではないかと思わせるデータが存在する。 日本政策金融公庫の中小企業者向け融資・証券化支援保証業務における貸付金額は5兆3,799億円、貸倒引当金は2,653億円である(2017年度)。貸付金額に占める貸倒引当金の割合は4.9%となる。私が診断士活動の拠点としている城北エリアの地銀であるきらぼし銀行(東京きらぼしフィナンシャルグループ)の財務状況を見てみると、中小企業向け融資額が2兆2,194億円、貸倒引当金が261億円となっている(2019年3月期)。貸付金額に占める貸倒引当金の割合はわずか1.2%にすぎない。この貸倒引当金はグループ全体の金額であり、個人向け融資(住宅ローンなど)の貸倒引当金も含まれている。よって、中小企業向け融資に限って割合を計算すれば、さらに低くなる。

参考までに、東京きらぼしフィナンシャルグループとJCRの格付けが同じ(2019年2月時点でA-)福井銀行の場合は、貸出金残高が1兆6,723億円、貸倒引当金が131億円で、貸倒引当金の割合は0.8%となっている(2019年3月期)。

地銀は財務基盤が健全な企業を選別する。日本政策金融公庫も確実に返済できる企業を選ぶ。だとすると、地銀と日本政策金融公庫の間で、貸倒引当金の割合に約4倍もの差がある理由を説明することができない。厳正に審査を行っていればこんなに多くの貸倒引当金を積まなくてもよいはずである。本当のところは審査が緩いのではないかと思えてくる。日本政策金融公庫の貸付金の主たる原資は財政投融資である。そして、財政投融資は、国債の一種である財投債を財源とする。日本の国債は安全と言われているのに、5%ほどは貸し倒れるリスクが見込まれる金融に使われていると解ったら、市場関係者は怒るかもしれない。

緩い審査で思い浮かぶのが消費者ローンだ。最短3秒で審査が可能かを判断してくれる企業さえある。リスクが高い融資であるが、その分高い金利を課して貸し倒れに備える。アコムの財務状況を見ると、営業貸付金は1兆4億円、貸倒引当金は765億円で、貸倒引当金の割合は7.6%である(2019年3月期)。プロミスの場合は、営業貸付金残高が1兆1,571億円、貸倒引当金が733億円で、貸倒引当金の割合は6.3%となっている(同)。日本政策金融公庫の比率が地銀の比率ではなく消費者ローンのそれに近いのは全くもって謎である