【2018年反省会(1)】はじめに~資格学校の講師の仕事は止めるべきサインがあった

【2018年反省会(1)】はじめに~資格学校の講師の仕事は止めるべきサインがあった
 

【2018年反省会】記事一覧(全26回)

年明けに水曜どうでしょうの「初めてのアフリカ」(2013年収録)を久しぶりに観てみた。放送された当時は大泉洋さんや藤村Dによる執拗な宣伝が企画の邪魔だと感じることが多々あった。ところが、このタイミングで観直してみると、もはやエッセイやグッズの賞味期限が切れているため当初の不満はどうでもよくなり、やはりどうでしょうらしい、いい意味でピントが外れた企画だと思うようになった。水曜どうでしょうは、「寝かせると面白くなる」という稀有な番組である。だから、もう20年以上前の企画であっても、未だに面白く見ることができるのだろう。

「初めてのアフリカ」以降、どうでしょう班は3回ほど新作の旅に出ている。その編集がようやく始まったという告知が年明けのHTBのCMで流れた。「編集が始まった」ということだけでCMを流してしまうHTBは相変わらず寛大な放送局である。藤村Dは編集が面倒くさかったなどと言い訳をしていたが、寝かせると面白くなることを知っていて、意図的に編集を放置していたのかもしれない。ともあれ、どうでしょう藩士としては、今年の新作放送が楽しみでならない。

さて、私のブログは久しぶりの更新である。11月以降更新がストップしていたのは、2か月半ほど入院していたためである。2018年は3月に1か月間入院し、7月に1か月間自宅療養し、11月から翌年の1月中旬にかけて長期入院した。個人事業主として満足な仕事ができずに相当焦っていた。焦って色々手を出すものの、何一つものにならなくて余計に焦り、かえって病状を悪化させるという悪循環にはまった。年明けに退院して大分気持ちが落ち着いたので、昨年1年間の出来事を自分なりに振り返ってみようというのが今回の【2018年反省会】シリーズである。このシリーズは寝かせるとさすがに時機を逸してしまうため、今から書き始める。ただし、いつまで続くか自分でも解らない。「初めてのアフリカ」並みにだらだら続くと思う。

途中、私の両親に関する記述が出てくる。読み方によっては、私が単に両親のことを批判しているかのように受け取る方もいらっしゃるかもしれない。だが、私の目的は「ジャーナリング効果」を狙い、書くことによって嫌な思い出を払拭することにある。もちろん、その程度なら私の日記にとどめておけばよいのではないかという意見もあるだろう。ただ、私としてはもはや日記として手元に残っているのも苦痛であり、記録には残すものの、電子空間のどこかに放り投げておきたい。この点をご理解いただいた上で読み進めていただければ幸いである。

もう1つ読者の皆様にはご了承いただきたいことがある。【2018年反省会】シリーズの構想は昨年末から病院の中であれこれと練っており、その際スマホで色々と調べ物をしていた。私はスマホのSEO対策に関する最近の動向についてはほとんど知らない。どうやら、目次を作って文章を構造化すると検索結果の上位に表示されるようである。そして、その目次も検索結果に表示され、ユーザは自分が読みたい箇所に直接ジャンプすることができる。しかし、無理に構造化することによって、かえって下手で冗長な文章がものすごく増えたと感じた。

「皆さんは○○について疑問に思ったことはありませんか?私なりに調べてみました。早速見ていきましょう」という導入から始まり、最後のまとめに入る前に「以上の内容をまとめると次のようになります」などと書くのがテンプレート化しているようである。私に言わせれば、著者が調べたければ勝手に調べればいいし、まとめを読めば解る内容なら最初に要約を持ってくればよい。この手の記事の多くは、ランサーズで外部のライターに対し、1文字0.7円などという異常な単価で書かせたものだろう。そんな文章だから誰も真面目に推敲しようとしない。その結果、変な文章が量産されていると感じた。私には、自分のブログをスマホ用に最適化する考えは毛頭ない。私の文章は読者が読みたい箇所をつまみ食いして理解できるものにはなっていない。通読に耐えうる文章を書いているつもりであるから、最後までおつき合いいただきたい。

導入が長くなってしまった。ここからが本題である。話は2017年11月に遡る。当時、私はある資格学校(以下、X社とする)が提供するe-Learningの講座で、中小企業診断士とその関連資格の講師をしていた。その時の顛末は、以前の記事「『致知』2018年4月号『本気 本腰 本物』―「悪い顧客につかまって900万円の損失を出した」ことを「赦す」という話」で書いた。11月時点で、私が業務委託契約によって収録を約束していた科目については、収録が完了していた(むしろ2科目ほど多く収録した)。この時既に、作成したレジュメ(パワーポイントで作成した講義用資料)が多すぎることは、さすがの私も解っていた。

11月末にX社から連絡があり、「行政書士の人が収録した『ビジネス実務法務検定』と中小企業診断士の『経営法務』の講義に対して受講者からクレームが多数寄せられており、動画を全て撮り直したい。ついては、私にその仕事をお願いしたい」と持ちかけられた。

契約書ではX社が毎年1月と7月に過去半年分の売上高を計算し、その一部をレベニューシェアとして私に支払うことになっていた。2017年7月に受講者数を報告してもらったところ、たった50人であった。50人しか受講者がいないのにクレームが多いというのも不思議な話である。X社が受講者数を過少申告しているのではないかという疑念もよぎった。だが、受講者数がはるかに多ければ、googleで私の名前を検索した際に、サジェスチョンにX社の名前が表示されてもおかしくない。そのサジェスチョンもなかったから、X社の言う受講者数が本当で、X社に何らかの事情があったのだろうと信じ、再収録の仕事を引き受けた。それに、この仕事を問題なく遂行すれば、レジュメに対する報酬の交渉で優位に立てるだろうという変な下心もあった。

私は法学部出身だが、別に法律の専門家ではない。行政書士の人の方がよっぽど法律に詳しい。『ビジネス実務法務検定』は初級と中級に分かれており、私がこれまでに収録した他の科目と同じペースで収録をした場合には半年近くかかるという見込みをX社に提示した。ところが、X社からは、受講者を待たせるわけにはいかないため、2か月で収録してほしいと要請された。私が考えていたスケジュールを約3分の1にするのだから、かなり無理がある話であった。それでも、後の交渉で優位に立ちたいという一心で、何とか1月末までに収録を終えた。

動画の収録は孤独である。機材のセッティングはX社の担当者がしてくれるものの、収録が始まると担当者は部屋から出て行ってしまう。デジカメのRECボタンをリモコンで操作するのは私である。動画の収録であるため、当然のことながら途中でNGを出すこともある。その場合は自分で編集点を作り、「すみません、この部分から前の動画とつないでください」などと、X社の編集担当者向けのコメントを入れて続きを収録していた。最初は丁寧にコメントを入れていたのだが、専門外の法律に関する動画を収録していることと、スケジュールが詰まっていることに対する焦りもあって、だんだんと編集点を作る作業が雑になっていった。途中から若干不機嫌そうに、「ここから撮り直します(棒)」といったコメントに変化していたことは、X社の編集担当者も気づいていたと思う(もちろん、動画本編はこれまでの科目と同じ調子で収録した)。

ビジネス実務法務検定の初級は1月頭に、中級と中小企業診断士の経営法務は2月頭にリリースされた。私は、受講者からクレームが出ていないかどうかを気にしていた。私の過剰な期待だったのかもしれないが、X社がクレーム対応のために動画の撮り直しを私に依頼したのだから、撮り直した結果どうなったのか、少しぐらい報告があってもよいのではないかと思っていた。1月末になってもX社の担当者から特段何の連絡もなかったため、私の方から初級に関する評判を確認してみた。すると、クレームは収まったとのことだった。2月に入ってからもX社から特に追加の要求はなく、中級と経営法務のクレームもなくなったと理解している。この点も含めて評価してほしいと交渉に臨んだものの、不調に終わったことは前掲の記事の通りである。

そもそも、2017年7月時点で中小企業診断士講座の受講者が50人しかいないというのが大問題であった。中小企業診断協会が公開しているデータによると、1次試験の受験者数は毎年だいたい1万6,000人である。このうち、何らかの資格学校を利用している人がどの程度存在するのかについてのデータは、残念ながら発見することができなかった。

ここからは私の肌感覚で話を進めることをご容赦いただきたい。2次試験まで合格して資格を取得した知り合いの人たちの話を聞いていると、6~7割は資格学校を利用している。一応、中小企業診断士は難易度が高い資格の部類に入るから、何かしらの資格学校を利用するのが合格への近道とされる。1次試験の受験者の大半は試験に合格していないため、資格取得者に比べれば資格学校の利用率は下がるに違いない。とはいえ、不合格者であっても1次試験の受験までは到達しているから、ある程度勉強しているとも言える。また、初めから複数年かけて科目合格を重ねる計画で挑んでいる人も含まれる。これらのことを総合して、1次試験の受験者のうち4割が資格学校を利用していると仮定しよう。つまり、6,400人である(①)。

1次試験の受験者以外には、受験まで至らないものの試験勉強はしているという人もいる。私の周りにもそういう人は結構いて、1次試験を受験した人と同じぐらい存在するように感じる。ただし、受験しなかった人の中には、勉強の途中で挫折した人も少なくない。そういう人は往々にして、資格学校への先行投資がないがゆえに、受験者に比べて諦めやすいという傾向がある。したがって、試験勉強だけして1次試験を受験しなかった人のうち、資格学校を利用していた人の割合は2割にとどまると仮定する。すると、3,200人となる(②)。

①と②を合計すると、資格学校で1次試験の勉強をしている人は約1万人存在する計算になる。私は、収録の過程で、X社が中小企業診断士の講座に対してどのくらい人件費をかけているかある程度知っていた。また、広告宣伝やe-Learningのシステム開発にもそれなりの投資が必要である。これらの点を踏まえ、加えてX社が受講者向けに設定していた価格をベースにすると、少なくとも毎年500人以上の受講者を獲得しなければ、初期投資を回収できないし、安定した利益が出ないと私は見積もっていた。500人と言っても、全体の市場規模に対してわずか5%である。中小企業診断士の資格学校はそれほど数も多くない。いくらX社がベンチャー企業であるとしても、5%ぐらいの目標なら達成できるだろうと見ていた。これが甘かった。

レベニューシェアとは、私から見ると印税である。書籍やCDの場合は、それがどれだけ売れるかは出版社やレコード会社にも予測できない。よって、リスクを著者やアーティストに転嫁するために印税方式を採用することは理解できる。一方、資格学校の市場は、受講者がいる限り必ず存在する。まして、中小企業診断士は近年人気が上がっており、受講者数はわずかながら増加傾向にある。だから、適切な事業計画を策定し、適切なマーケティングを行えば、確実にとまでは言わないがそれなりにビジネスになる。需要がある程度見えているものに対して、私が講義動画+レジュメというサービスを納品しているのだから、レベニューシェアという奇妙な契約形態ではなく、サービス全体に対する対価を請求できる契約にするべきであった。

それにしても、私の目論見の10分の1しか集客できていなかったというのだから、X社は一体どういう事業計画を立てていたのか見てみたかったものである。

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