平成30年度補正ものづくり補助金申請書の書き方例(その1)(※注意点つき)
- 2019.05.02
- 記事
※補助金を初めて受ける企業に読んでいただきたい記事
【シリーズ】補助金の現実
【シリーズ】「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)
平成30年度補正ものづくり補助金の第2次締切は2019年5月8日(水)〔消印有効〕である。今回の記事は、「ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)|(2)」の焼き直しである。記述例の作成にあたっては、高橋透『技術マーケティング戦略』(中央経済社、2016年)に記載されている架空の事例を私が編集した。以下のサンプルは1万字程度だが、過去の採択事業者から話を聞くと、A4で15ページ前後の申請書を作成しているところが大半であった。今回は公募要領の中で、様式1と様式2を合わせて15ページ以内、文字サイズは10.5ポイントと指定されている。ルールに反した場合は、それだけで形式要件違反と見なされ、不採択となる可能性がある。様式1は全社共通の表紙であり、様式2の冒頭2ページは会社情報を記載するため、実際に事業計画を書くことができるのは12ページ程度と考えた方がよい。
【事業計画名】
導電性繊維技術を利用した、ウェアラブル装置に代わるセンシング繊維の開発
その1:革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容
当社の概要
当社は1950年に創業した繊維企業である。創業当時から蓄積してきた紡績・織布/編成・染色加工・縫製における独自の技術を活かし、コットンやウール、麻など天然繊維をベースにした高機能・高感度の繊維製品を製造・販売している。近年は導電性繊維(※)フィルム、炭素繊維を開発し、多様な要素技術を有するのが強みである。また、産官学でのオープンイノベーションにも積極的に取り組んでおり、他からの技術支援を受けられる体制が整っている。
(※)導電性繊維=通常、繊維を形成する高分子化合物は絶縁体であるが、特に導電性を持たせた繊維を導電性繊維と言う。近年、石油化学工場における静電気による火災の防止、医薬品工業,精密電子工業におけるほこりの付着や放電の防止のために、優れた制電性を有する被服材料が要求されている。現在開発されている導電性繊維には,①合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させたもの、②ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、③有機物繊維の表面を金属で被覆したもの、④有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆したもの、などがある(「世界大百科事典 第2版」より)。
○主な取扱製品
①一般・カジュアル衣料品=シワ形状コントロール素材で、ビジネスカジュアルからヴィンテージまで幅広いファッションに対応できるテキスタイル素材。
②ユニフォーム関連=防炎性の優れたアクリル系繊維プロテックスと、製造段階でできた落綿を含むコットンを混紡。防炎機能とエコロジーを兼ね備えたテキスタイル素材。
③一般衣料品・生活雑貨・インテリアホームテキスタイル=糸の内部に空隙を持つ、軽くて膨らみ感のあるソフトな風合い、優れた吸水性を持つ特殊紡績糸素材。
④抗菌・抗ウイルス機能繊維=繊維上のウイルスの数を減少させ、細菌、真菌などの増殖を抑制。高機能と高い安全性、洗濯耐久性を実現。
【POINT】審査員は公募企業のことを知らないことが大半であるため、最初に簡単に会社の概要を説明するとよい。特に、強みに触れるとベター。ただし、ページ数が限られていることから、できるだけ簡潔に記述する。
開発の背景
当社を取り巻く事業環境をPEST分析した結果、図1のようになった。
○図1:PEST分析の結果
我が国は高齢化の進行に伴って社会保障費が毎年1兆円ずつ増加する見込みであり、社会保障費の抑制が喫緊の課題になっている。そのためには、国民が健康を維持することが重要である。幸い、健康に対する意識の高まりとともにスポーツ人口(特に女性)は中長期的に見ると増加傾向にあり(図2)、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催もスポーツ関連需要の拡大を後押ししている。文部科学省も「できるかぎり早期に、成人の週1回以上のスポーツ実施率が3人に2人(65%程度)、週3回以上のスポーツ実施率が3人に1人(30%程度)となることを目標」とする「スポーツ基本計画」を掲げている。
ところで、近年の注目すべき技術としてセンシング技術が挙げられる。ウェアラブル端末に代表されるように、体内の各種データを随時取得してモニタリングしたいというニーズが消費者の間で高まっている。そこで、当社は強みである導電性繊維とセンシング技術を組み合わせて、健康意識の高いスポーツ愛好者をターゲットに、ウェアラブル端末よりも多様なデータを取得することが可能な、センシング繊維を開発することとした。
【POINT】開発する製品・サービスをいきなり説明するのではなく、開発の背景にも触れる。その際、客観的な分析結果があると説得力が増す。なお、この後の記述にも共通することだが、図表は別添資料とせず、本文に入れ込むべきである。審査員の中には、別添資料を読まない人がいる。特に今回は、ページ数が15ページと限定されていることから、添付資料が多いと心象が悪くなる。
開発する製品
今回開発するのは、図3のようなセンシング繊維である。ウェアラブル端末で取得可能な心拍数、体温に加えて、センシング繊維では心電波形、加速度も取得できる。当社が製造したセンシング繊維を活用して、顧客であるスポーツウェアメーカーはアンダーウェアを製作する。アンダーウェアを購入した最終消費者はまず、モニタリング・解析用のアプリケーションをスマートフォンにインストールし、会員登録する。次に、アンダーウェアに記載されているQRコードを読み取り、会員情報と紐づける。最終消費者が複数のアンダーウェアを購入・使用する場合でも、同一IDの下に身体情報を蓄積・管理することが可能である。アンダーウェアが取得した情報は、Bluetoothを通じてスマートフォンのアプリケーションに転送される(図4。なお、アプリケーションはスポーツウェアメーカーがスマートフォンアプリ開発会社に開発委託することを想定している)。
○図3:センシング繊維の概要
○図4:センシング繊維活用アンダーウェアからスマートフォンへのデータ転送イメージ
(※適当な画像がなかったため、こちらから拝借した。本当は、アンダーウェアとスマートフォンの連携の図を記載する)
【POINT】審査員は、必ずしも応募企業の技術に詳しいとは限らない(むしろ詳しくないと考えた方がよい)。審査員に製品・サービスのイメージが湧くよう、ビジュアルを多用して表現するのが望ましい。
開発する製品・サービスは「革新的」でなければならない。自社も他社も全く手がけていない製品・サービスは真の意味で革新的である。しかし、そこまで革新的な製品・サービスはなかなか思いつかない。ものづくり補助金における「革新的」とは、「競合製品・サービスは存在するが、自社にとって初となる取り組みであり、競合他社の提供価値を凌駕するもの」を意味すると考えればよい。
今回のものづくり補助金の正式名称は、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」である。「生産性向上」であって「業務効率化」ではない。現行の工程は手作業が多く、設備も老朽化しているから最新の設備に入れ替えたい、熟練工の退職を控え、ノウハウを守るために設備を導入したい、あるいは一部の外注工程を自社に取り込むために設備を新設したいというのではまるで話にならない。
今回の補助金では、「先端設備等導入計画」の認定を受けている、あるいは申請中である場合、審査結果に加点される。個人的にはこの計画には懐疑的である。先端設備を導入すれば中小企業の競争力が上がるのであれば、国が補助金を出して全ての中小企業に先端設備の導入を義務づければよい。そういう流れにならないのは、企業のプロセスや強み、その源泉となる経営資源には特殊性があり、最新設備が必ずしもその企業にフィットするとは限らないからである。昔、Googleが急成長を遂げていた時、世界中からのトラフィック増に対応する必要があった。Googleは最新スペックのサーバを導入せずに、かき集めた旧式サーバを改良して巨大なネットワークを形成し、最新サーバよりもはるかに高い処理能力を達成した。
審査項目の「【技術面】①新製品・新技術・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘(設計・デザイン、アイデアの活用等を含む))の革新的な開発となっているか」とも関連。
技術的な課題と解決策
センシング繊維を開発するにあたっての技術的な課題と解決策は以下の通りである。課題の達成度合いは下記の指標にて判断する。
【要素技術開発】
①導電性繊維・フィルムの導電性アップ⇒素材、組合せの見直しによる効率アップ(目標効率=○○%アップ)。
②発電繊維による発電量の確保⇒ナノファイバーを利用し、摩擦発電と圧電効果による発電のハイブリッド構造により実現(目標発電量=○○μA)。
③電気回路の設置⇒印刷方式の回路を生地にプリントする方式を採用(目標品質=○○)。
【設計技術開発】
①生地の伸縮性、肌との密着度、データ精度と着心地のバランス⇒既存スポーツ向け繊維に発電用の炭素繊維を織り込むことで伸縮性を確保しつつ、圧着による皮膚接触圧を確保、デー測定の安定を図る(目標データ精度=医療用との相関r=0.7)。
②洗濯耐久性⇒特に課題となる、回路やセンサ部分を繊維、印刷加工にすること、フィルムコーティングすることで洗濯耐久性を確保(目標品質=○○)。
【生産技術開発】
①発電、二次電池用炭素繊維の生産方法⇒溶融紡糸生産方式を用い、カーボンナノファイバー化することにより実現(目標生産量=○○)。
②生産キャパシティ、フレキシブルな生産⇒新規生産設備の導入(協力メーカーとの一部共同開発)(目標生産量=○○)。
【POINT】技術的な課題は3~5個程度記述する。私が繊維業界に詳しくないため上記の例では文章でしか記述していないが、この部分も図面やポンチ絵などを用いてビジュアルで訴求したい。技術的な課題と解決策は審査の重要ポイントであるため、2ページほど記述がほしい。解決策を提示するだけではなく、本補助事業における「達成度の考え方」=ゴールを明確に設定することが欠かせない。上記の例では、「目標データ精度=医療用との相関r=0.7」などがそれにあたる。
審査項目の「【技術面】②サービス・試作品等の開発における課題が明確になっているとともに、補助事業の目標に対する達成度の考え方を明確に設定しているか、③課題の解決方法が明確かつ妥当であり、優位性が見込まれるか」とも関連。
開発体制およびスケジュール
開発体制および開発スケジュールは図5・6の通りである。回路の生地プリントについては、長年の協力企業である○○紡績株式会社からの支援を受ける。また、発電繊維に関する技術については、○○大学○○研究室と共同で研究を進める。
○図5:開発体制
○図6:開発スケジュール
<各タスクの説明>
【要素技術開発】
①導電性繊維・フィルムの導電性アップ=森(フィルム技術)が中心となり、山口(炭素繊維技術)の支援を受けながら、○○シミュレーション方式、△△シミュレーション方式を用いて、素材u、v、wなど7種類の素材の中から最適な組み合わせを特定する。
②発電繊維による発電量の確保=・・・。
③電気回路の設置=・・・。
【設計技術開発】
①生地の伸縮性、肌との密着度、データ精度と着心地のバランス=・・・。
②洗濯耐久性=・・・。
【生産技術開発】
①発電、二次電池用炭素繊維の生産方法=・・・。
②生産キャパシティ、フレキシブルな生産=・・・。
【試作品の生産・品質検証】=・・・。
【POINT】開発体制を図で表し、責任者と担当者を明確にする。連携している協力会社や大学などがあればそれも記載する。「外注先」、「提携大学」などではなく、固有名詞を書く。自社に足りないリソースは外部から調達できる目途が立っていることを審査員にアピールする。開発スケジュールはガントチャートで表した上で、それぞれのタスクの詳細(誰が、何を、どのように行うのか)を説明する。
補助事業期間中に補助事業が完了するように留意する。今回は、「一般型」の場合は2019年12月27日(金)まで、「小規模型」の場合は2019年11月29日(金)までとなっている。2次締切に応募した場合、採択結果が出るのはおそらく6月前半である。それから交付申請を行い、交付決定が下りてからようやく補助事業を開始することができる。早ければ6月中に交付決定が下りるだろうが、交付申請に手間取ると事業開始が7月にずれ込む。完了期限までの時間は意外と短い。
設備投資の場合、機械の選定や仕様の打ち合わせに数か月を費やし、最後の1~2か月で納入、検収、支払を行って事業完了とする計画がたまに見られる。支払いが終われば補助事業完了ではない。前述の「達成度の考え方」がどの程度達成されたのかを検証して初めて補助事業は完了となる。よって、一定の試作品を製作し、品質などをチェックする時間もスケジュールに盛り込んでおかなければならない。検証作業が不十分だと、補助事業終了後に事務局に提出すべき「完了報告書」を作成することができず、補助金の支払いを受けられないこともあり得る。
また、機械の納入を補助事業完了期限ギリギリにすると、完了期限間際に機械メーカーの製造が集中し、納品が遅れることがある。補助事業期間内に機械が納品されなかった場合、代金を支払わないという契約になっていればよいのかもしれないが、機械メーカーが中小企業側の要求に応じないことも考え得る。仮に代金の支払いを回避できたとしても、公募のために一生懸命作成した事業計画が実行できなくなるのだから、中小企業にとっては痛手である。こうした事態を避けるためにも、スケジュールには余裕を持たせるべきである。
審査では、「補助事業の実施体制」と「事務処理能力」の両方が見られる。上記の例では十分に書くことができなかったが、「事務処理能力」の有無も実は重要である。冒頭で示した「【シリーズ】補助金の現実」の記事にもあるように、補助金を受けるには事務局と大量の書類をやり取りしなければならない。よいか悪いかは別として、「ものづくり補助金は書類づくり補助金である」と揶揄される。
事業面の計画と実績、費用面の計画と実績を正確に書類に落とし込むことができる人材が必要となる。事務局は1円単位の間違いでも絶対に見逃してくれない。少人数の中小企業では、社長または経理担当者が両方の書類作りをしなければならないだろう。しかし、社長は費用面のことを、経理は事業面のことを理解していないことが往々にしてある。よって、個人的な理想を言えば、社長と経理の2人で事務処理にあたることを明記するのが望ましいと考える。
審査項目の「【技術面】④補助事業実施のための体制及び技術的能力が備わっているか」、「【事業化面】①事業実施のための体制(人材、事務処理能力等)や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか」とも関連。
(「平成30年度補正ものづくり補助金申請書の書き方例(その2)(※注意点つき)」へ続く)
平成30年度補正ものづくり補助金申請書の書き方例(その2)(※注意点つき)
※補助金を初めて受ける企業に読んでいただきたい記事 【シリーズ】補助金の現実 【シリーズ】 「ものづくり補助金」申請書の書き方(例) (「平成30年度補正ものづくり補助金申請書の書き方例(その1)(※注意点つき) 」の続き) その2:将来の展望 (本事業の成果の事業化に向けて想定している内容及び期待される効果) ○図2(再掲):成人の週1回以上運動・スポーツを行う者の割合の推移 …
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