平成30年度補正ものづくり補助金をめぐる7つの論点(+3の論点)

平成30年度補正ものづくり補助金をめぐる7つの論点(+3の論点)

 以前の記事「平成30年度補正ものづくり補助金をめぐる7つの論点」への追加。

平成30年度補正ものづくり補助金をめぐる7つの論点

以下、ものづくり補助金に関する私見を述べる。  ①平成24年度の補正予算から始まったものづくり補助金は、今回で7回目を迎える。年を経るごとに、「申請代行業者」なるものが増えているように思える。実際、「ものづくり補助金」で検索すると、代行業者の広告が表示される。 …

補助金はリターンを上げなくてもよいというトンデモ診断士の主張

 ⑧一昨年、日本経済新聞に「ものづくり補助金、投資回収1%にも未達 財務省調査」(2017年11月22日)という記事が掲載された。

 たとえば14年度の投資実績は1万2319件だが、商品化できたのは4330件にとどまった。補助金を含めた「投資回収」に至った実績はわずか7件だった。財務省が2012年度からの3年間の状況を経済産業省の協力を得て調査した。

 これに対して、製品の投資回収期間は3年とは限らない、投資回収期間を想定した会計上の減価償却期間はもっと長い、補助金には収益納付の制度があり、補助金返納を嫌がって利益を過少申告している企業が少なくないなど様々な反論があるだろう。最後の反論はさておき、業種によって投資回収期間の差はあるにせよ、比較的製品ライフサイクルが長い自動車業界でも、フルモデルチェンジは4年に1回(ただし、近年は長期化する傾向がある)、マイナーチェンジは2年に1回行われる。フルモデルチェンジ用に製作した金型は次のモデルチェンジには使えないとすると、金型への投資は4年以内に回収しなければならない。

 税務上用いられる減価償却資産の耐用年数は『減価償却資産の耐用年数等に関する省令』(耐用年数省令)の別表に記載されている。ただし、この『耐用年数省令』は1965(昭和40)年に公表されたものであり、現在とはまるで状況が異なる。ただでさえ、日本の減価償却期間は長い。韓国の減価償却期間はもっと短く、毎年の会計上の費用負担が大きい。そのため、企業努力によって費用を上回る利益を上げようとするインセンティブが働く。また、投資のサイクルが短くなるので、韓国経済全体にとってもプラスになる。半導体業界で韓国と日本の明暗を分けた分けた1つの要因が、この減価償却の扱いだとされる。

 他方、日本の場合は、機械の減価償却期間が一部の機械設備を除き、おおよそ10年前後である。「機械工具、金型又は治具製造業用設備」はちょうど10年だ。自動車メーカーが10年もかけて投資を回収していたら、グローバル競争にはとても勝てないだろう。「企業は減価償却期間中に投資を回収すればよいので、3年で成果を見る財務省は間違っている」などと書いている中小企業診断士のブログを見たが、間違っているのはその人の方である。

 個人的には、ものづくり補助金においても、どんなに長くとも5年で投資を回収する計画を立てるのが望ましいと考える。少なくとも、仮に1,000万円の補助金を受けるのだとすれば、その1,000万円が全て金融機関からの借入金であると見なして、5年以内にその1,000万円を返済できる事業計画にする必要がある。したがって、実はかなりハードルが高い。

 売上高3億円、経常利益率3%(経常利益900万円)の製造業が設備投資をして1,000万円の補助金を受けたとしよう。ものづくり補助金の要件の1つに、「3~5年計画で年平均1%の経常利益増」というものがある。5年計画であれば、5年後に現在の経常利益が5%以上増えていなければならない。ものづくり補助金は、新製品・サービスの開発に関する費用を補助するものである。よって、ここでの事業計画とは、新規事業を含む事業計画になる。

 既存事業が全て新規事業に取って代わられることは滅多になく、企業全体に占める新規事業の割合はせいぜい20%ぐらいであろう。既存事業の売上高は横ばいで推移するとして、5年後の新規事業の売上目標を3億円の20%、つまり6,000万円とする。この時、5年後の企業全体の売上高は3.6億円であり、経常利益900万円が5年後に5%増加するという要件を満たすだけであれば、945万円でよい。しかし、この増分では1,000万円は到底返済できない。

 5年で1,000万円を返済する場合、毎年の返済額が線形的に増加するとやや強引に仮定すれば、67万円、134万円、201万円、268万円、335万円となる。新規事業の売上高も5年後の6,000万円に向けて線形的に増えていくと、1,200万円、2,400万円、3,600万円、4,800万円、6,000万円と推移する。毎年の返済額が経常利益と等しいと、ここでも乱暴に仮定した場合、新規事業の5年間の平均経常利益率は約5.6%となる。これだけの利益があると実効税率は約35%になるから、営業利益率に換算したら約5.6%÷約65%=約8.6%にも上る。

 しかも、これはあくまでも5年間の平均であり、事業開始直後はほとんど利益が上がらない(むしろ赤字になる)ことを考慮すれば、後半はもっと高い営業利益率が必要となる。借入金の返済だけでなく、投資額全体の回収となると、営業利益率はさらに上がる。審査員や事務局、さらには中小企業庁や経済産業省も、ここまで目が行き届いているのか疑問である。

 一般に、設備資金の返済期間は10~20年と非常に長期である。これも、企業の投資感覚を狂わせる一因である。工作機械などは、追加の投資や、他の製品製造への転用で長期的に使用できると想定されているのかもしれない。その場合でも、将来の改良や転用によって得られる利益がどのくらいであり、その利益から返済資金を確保できるかを考えておかなければならない。とはいえ、そんな先のことをあらかじめ計画に織り込むのは無理である。それならば、最初の製品寿命が尽きても減価償却と借入金返済が残っている場合に、その時点で次の製品を開発すればよいという経営姿勢になるが、あまりに不確実性が大きい。

 ものづくり補助金に限らず、多くの補助金では目的外使用が禁じられている。つまり、承認された事業計画において、製品Aを製造する目的で購入した機械であれば、製品Bの製造に使用(転用)することは原則としてできない。事前に事務局から目的外使用の承認を得ることで初めて、製品Bの製造が可能になる。特定の製品製造を目的とし、1,000万円の補助金を受けて工作機械を導入した場合、仮に5年間で1,000万円を回収できなければ、後で転用すればよいと企業側は目論むかもしれない。しかし、これでは目的外使用を禁じた補助金の規定が骨抜きにされてしまう。目的外使用の禁止は、限定された目的の範囲内でできるだけ短期間のうちに投資を回収するよう行政側が促しているものと解釈するべきである。

取引先と結託したキックバックの可能性

 ⑨ものづくり補助金の上限は1,000万円(補助率3分の2)である。例えば税抜き1,500万円の機械装置を購入すると、3分の2にあたる1,000万円の補助金の交付を受けることができる。実は、工作機械などは、代理店と交渉すれば割と簡単に4割ぐらい値引きしてもらえる。1,500万円の工作機械を購入する場合、補助金がなければ企業側の負担は値引き後で900万円となる。代理店の売上高も900万円である。一方、補助金の交付を受けると、代理店は1,500万円の売上を計上できる上に、企業側の負担も補助金1,000万円を除いた500万円で済む。補助金で一番儲かるのは機械メーカーやその代理店だと揶揄される理由がこれである。

 以前の記事「補助金の適正利用をチェックするよりも、補助金の投資対効果をモニタリングすることに注力すべきでは?」で、補助事業終了後の事業化状況を国がトレースしていないことに不満を漏らしたことがあった。私の意見が国に届いたとは到底思えないのだけれども、中小企業庁は数年前から「フォローアップ事業」と称して、過去に補助金の交付を受けた中小企業の”その後”を追いかけるようになった。関係者の話によると、夜逃げした企業もあるらしい。相手が経営難で逃亡するのは金融機関でも経験することであるが、中には補助金で購入した機械を他社に転売した企業もあるそうだ。当然のことながら、ルール違反である。個人的には、前々からこの危険性には気づいていた。さすがに据え付け工事が必要な大型の工作機械は転売不能だとしても、小~中サイズの機械なら転売する輩がいるだろうと思っていた。

 私は、もう1つの不正を想定している。それは、前述した代理店との取引において、代理店が中小企業に後からキックバックするケースである。仮に、1,500万円の工作機械の仕切り価格が700万円だとしよう。代理店が4割値引いて販売した場合に代理店の手元に残る利益は200万円である。一方、代理店が値引かずに販売した場合の利益は800万円である。このうち100万円~200万円ぐらいを中小企業にキックバックしても、代理店にとっては痛くもかゆくもない。中小企業は事実上、300~400万円で工作機械を購入したことになる。

 このキックバックを暴くのはほぼ不可能である。フォローアップ事業には、補助事業終了後の帳簿までチェックする権限は与えられていない。補助事業終了後に、中小企業の帳簿をチェックする権限が与えられている唯一の機関は会計検査院である。しかし、会計検査院が監査するのも、補助金で不当に高いものを買っていないか、補助金で買ったものがその後使われていないということがないか、あるいは先ほど述べたような、勝手な財産処分をしていないかといったことぐらいであり、背後で動いているお金までは確認しない。まして、キックバックの裏づけを取るために代理店の帳簿に首を突っ込むことなど、誰にもできない。

法律上の中小企業の定義は恣意的すぎる

 ⑩私は、中小企業基本法が定める「中小企業の定義」にはどうも恣意性を感じる。中小製造業の定義は「『資本金の額または出資の総額が3億円以下の会社』または『常時使用する従業員の数が300人以下の会社およ個人』」であるが、3億円ないし300人という基準が何を根拠に定められたものなのか、私は把握していない。資本金3億円以下または従業員数300人以下の企業は、それ以外の企業に比べて倒産の確率が高いなど経営に特別の困難を伴うため、公的な支援を必要とするといった理由であれば理解できるものの、実際にはそういう理由ではなさそうだ(中小企業基本法の制定過程をじっくり研究してみたい)。

 同じ製造業でも、従業員数が100人と300人の企業では経営課題がまるで違う。全く異なる課題を抱える企業を同じ中小企業として扱い、一律の支援施策を適用することが果たして効果的と言えるかどうか、検証が必要だろう。それに、私が診断士の資格取得勉強をしていた15年ぐらい前は、製造業、卸売業、小売業、サービス業の4業種のみの定義だったと記憶しているが、いつの頃からか中小企業関連立法において、政令によりゴム製品製造業(一部を除く)は資本金3億円以下または従業員900人以下、旅館業は資本金5千万円以下または従業員200人以下、ソフトウエア業・情報処理サービス業は資本金3億円以下または従業員300人以下を中小企業とするようになった。こうなると、いよいよ基準の根拠が解らなくなる。

 ものづくり補助金でもそうだが、大企業が株式の半数以上を所有している、役員の半数以上が大企業にも所属しているなど、大企業が実質的に支配している中小企業は「みなし大企業」と扱われて、中小企業のカテゴリーから外れることがある。しかし、逆に中小企業が大企業を支配しているケースもある。大企業の子会社を傘下に収める持ち株会社は、子会社に投資している分だけ資本金の額こそ大きくても、運営にはさほど人的リソースを必要としない。よって、持ち株会社自体の事業が小さければ、中小企業に該当する持ち株会社も存在する。持ち株会社が補助金の申請企業となり、持ち株会社が取得した設備を子会社に無償貸与することで、事実上大企業が補助金で設備を購入した形にすることもできてしまう。

 資本金の額を中小企業の基準に用いるのには疑問を感じる。例えば、総資産が5億円、従業員数500人の製造業2社で、A社は資本金1億円+借入金4億円、B社は資本金4億円+借入金1億円だとしよう。A社は中小企業の定義に該当する。ところが、両社の最終利益が同額の場合、節税効果によって企業価値が高くなるのはA社である。企業価値が高いA社は中小企業支援策を活用できるのに、B社はできない理由を、B社の方が自己資本比率や固定長期適合率の観点から見てより健全であるからなどと説明するのはかなり苦しいだろう。

 中小企業の定義には資本金の基準があるのに、小規模企業者は従業員数のみで定義される点も腑に落ちない。改正中小企業基本法では、概ね常時使用する従業員の数が20人(商業またはサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については5人)以下の事業者を小規模企業者と位置づけている。では、従業員数だけで中小企業や小規模企業者を定義すればよいのかというと、そうでもないと考える。資本金1,000万円、売上高と利益が同額の小売業2社で、C社は従業員数20人であるのに対し、D社は短時間労働のパートタイマーを多数雇用しているため従業員数が60人だとしよう。C社は中小企業であり同時に小規模企業者であるから、政策上、小規模企業者向けの特別な配慮がなされるのに、D社は中小企業にすら該当しない。人材マネジメントの面で課題を抱えているのは、おそらくD社の方であろう。

 私は、補助金の要件から「中小企業であること」という条件を外せばよいと考える。最高1,000万円のものづくり補助金を活用したい企業はどの企業でもOKにする。1,000万円という額では足りないと思う”いわゆる大企業”は申請してこないし、1,000万円でもいいから調達したいと思う”いわゆる大企業”でも自由に申請させればよい。このように書くと、事業計画書を作成する能力は”いわゆる大企業”の方が上であるから、”いわゆる中小企業”が不利になるという意見が必ず出る。しかし、”いわゆる大企業”が優秀な経営企画スタッフや外部のコンサルタントを活用しても、複雑怪奇な戦略しか構想できないことはよくあるし、”いわゆる中小企業”でも、顧客の生の声に立脚した骨太の戦略を立案できるというのが、私の経験に基づく実感である。