【ベンチャー失敗事例(5)】「人材はHire and Fireだ」という幻想【Staff】

【ベンチャー失敗事例(5)】「人材はHire and Fireだ」という幻想【Staff】
 

営業力不足が課題だと感じたX社のA社長は、世界的に有名なあるデータベースを開発・販売するIT企業から法人営業担当者を2人引き抜いてきた。2人とも前職では高業績を上げて多額のコミッションをもらっていたというので、A社長も大いに期待していた。ところが、X社に入社後の2人の業績は鳴かず飛ばずであった。

大企業では、見込み顧客にアプローチする人、提案書を書く人、技術支援をする人、クロージングをする人、アフターフォローをする人などがチームを組んで法人営業を行う。ベテラン社員になればなるほどチームをコーディネートする役割を果たすようになり、したがって法人営業全般に必要な能力を満遍なく身につけているゼネラリストとなる傾向が強い。しかし、ベンチャー企業や中小企業がほしいのは、多少他の能力に難があってもよいから、突出した能力を1つか2つ持っているスペシャリストである。ベンチャー企業や中小企業においては、社員も商品のようなものである。そつなく何でもできる没個性的な商品よりも、エッジのきいた特徴的な商品の方がよい。

X社は人事制度構築のコンサルティングを提供していたが、実はコンサルタントの中には人事部門の経験者がいなかった。この事態を問題視したマネジャーは、ある有名な玩具メーカーの人事部門から知り合いをX社に引っ張ってきて、マネジャーの地位に就けた。確かにこのマネジャーは、人事の日常業務に関してはよく知っていた。しかし、目立った特徴がないゼネラリストであるこのマネジャーをどうやって顧客企業に売り込めばよいか、他のマネジャーは頭を悩ませていた。

一般論として、人材を採用するにあたっては、まずは自社の戦略的方向性を明確にし、戦略を実行するための業務プロセスや組織構造をデザインする。そして、現在の社員だけではカバーできない業務を特定し、その業務を遂行するのに必要な能力や知識を洗い出した上で、その能力や知識を持っている人材を募集する、という手順を踏む。

ただ、ベンチャー企業の場合は、戦略的方向性も業務も頻繁に変更となるから、現時点で自社に欠けている能力や知識を補充する、つまりマイナスを埋め合わせることばかりにとらわれない方がよい。応募者の傑出した能力に注目し、その能力を活用すると自社の競争力強化につながるかというプラスの視点で採用活動を行った方がよさそうである。その際に留意すべき点が3つある。

第一に、応募者が自分自身で上げた実績や成果に着目することである。採用面接では、

 ①前職ではどのような仕事をしていたのか?
 ②成果を上げるために自分自身で工夫したことは何か?
 ③その成果は、どの程度周囲の支援や外部環境の追い風のおかげだと言えるか?

という3つの質問は絶対に外してはならない。①はすらすら説明できるのに②が具体的に答えられない応募者は、突き抜けた能力がない、あるいは周囲の支援や外部環境の追い風(端的に言えば、景気が味方したなどの運)で成果を上げられた人である。

②ばかり堂々と回答し、③についてはほとんどないと言い切るような応募者も要注意である。どんな仕事も一人きりではできない。上司や同僚、その他社内外の人たちの助けを借りることもあるし、また運を味方につけることも決して悪いことではない。重要なのは、自分の能力を過信せず、現実を冷静に認識することである。①~③の質問にバランスよく回答できる応募者は、優れた能力の持ち主であると同時に、自分の能力の境界線を十分に認識している人だと言える。

採用面接では、応募者の所属企業の知名度や応募者の口車に騙されてはいけない。X社はある時、年商100億円を超えるWeb通販事業において、事業責任者に近いポジションでリーダーを務めていたという20代後半の人をコンサルタントとして採用したことがある。経歴だけを見れば、若くして随分と立派な人である。ところが、入社してものの数か月で、何と彼は“蒸発”した。「父親が亡くなったので数日休暇をもらいたい」という申し出があった後、連絡がつかなくなった。

父親を亡くしたショックで本当に体調を崩し、働くことが難しくなった可能性もゼロではないだろう。とはいえ、仮にもリーダーとして責任あるポジションに就いていた人ならば、どんな事情であれ会社との連絡を勝手に断ってはいけないと解っていたはずである。採用面接の段階でもっと丁寧に彼の人となりをヒアリングしていれば、こうした事態は防げたに違いない。彼の採用面接を担当したマネジャーは、「社員が蒸発するなんて、東南アジアの工場でしか聞かない話だと思っていた」と苦笑しきりであった。

採用面接の目的は、応募者が自分で工夫して上げた成果に注目し、その人の傑出した能力を特定することである。逆に、志望動機はそれほど聞く必要がない。応募者が入社後にやりたいことを尋ねても、会社の方向性がコロコロと変わるベンチャー企業では、その人の希望が叶わないことがある。いや、叶わない可能性が圧倒的に高いと言い切ってよいだろう。会社の方針が変わった場合に、やりたいことができなくなったからという理由でモチベーションが下がるようでは困る。

社員に突出した能力が1つでも2つでもあれば、まだ救いがある。多少モチベーションが下がっても、その能力のおかげである程度は成果を出し続けることができる。そうすれば、どこかのタイミングで仕事が面白いと思えるようになり、モチベーションが回復する可能性がある。これに対して、凡庸な能力しかない社員の場合は、モチベーションが下がると成果が出なくなる。私は、「入社後にあれもやりたい、これもやりたい」と言って意気揚々と入社してきた人が、成果を出せずに社内で行き場を失う様子を随分と見てきた(以前の記事「続・「やりたいこと」と「得意なこと」のどちらを優先すればいいんだろう?」を参照)。

続・「やりたいこと」と「得意なこと」のどちらを優先すればいいんだろう?

谷所健一郎『即戦力になる人材を見抜くポイント86―中小企業の面接技術』(創元社、2009年)は、中小企業における採用に関してユニークな視点を提供してくれる。例えば、「履歴書などを送る郵便物の住所を都道府県から書かない人は仕事で手抜きをする可能性が高い」、「面接で出されたお茶を飲まない人は心を開きにくい人である」といった具合だ。 …

第二に、応募者のスペシャリティに加えて、「変化に対応できる力」があるかどうかを見極めることである。繰り返しになるが、ベンチャー企業では戦略も製品・サービスも業務のやり方も頻繁に変わる。どんなに優秀な社員であっても、変化への対応を拒んだ瞬間にお荷物となる。採用面接では、前述の①~③に加えて、「前職では、それまでと全く異なるタイプの顧客、製品・サービス、業務を担当した経験があるか?」と質問する。同じタイプの顧客、製品・サービス、業務一筋でやって来た人は、残念ながらベンチャー企業の適性は低い。

X社が提供していたキャリア開発研修は、最初は若手社員向けだけであったが、次第に中堅社員向け、シニア社員向けが追加され、担当の講師も増えていった。A社長は、全ての講師はどの社員・世代向けのキャリア開発研修も実施できるようにし、柔軟な提供体制を整えようとした。

ところが、それぞれの講師は担当外の研修については関心を持たず、中身を知ろうともしなかった。そのため、若手社員向けの研修が忙しくなり講師不足になっても、シニア社員向けを担当している講師が手伝わない、などという事態が頻発した。それでも案件が回っているうちはまだマシであった。大企業から若手社員向け研修の大型案件が受注できそうだという時に、自前で講師の頭数を揃えることができないという理由で失注したことも数え切れない。

X社では、キャリア開発研修のラインナップが揃った後に、リーダーシップ研修の開発に乗り出した。この2つは全くの別物ではない。どちらも受講者自身の基軸や価値観を明確にすることを目指していた。内なる軸に従って自分の仕事の方向性をデザインするのがキャリア開発研修であり、チームや組織の方向性をデザインするのがリーダーシップ研修であった。

しかし、いざリーダーシップ研修の開発が終わると、キャリア開発研修の講師は1人を除いて全員が、「リーダーシップ研修の講師はやりたくない」と言い出した。その理由は、「自分は今までのキャリアでリーダーシップを発揮するような局面を経験していないので、受講者に自信をもって教えられるノウハウがない」というものであった。

結局、ただ1人リーダーシップ研修をやることになった講師をサポートする講師が誰もおらず、リーダーシップ研修は軌道に乗らなかった。その講師は重責に耐えかねて、ある顧客企業での研修の合間にトイレで泣いていたという話を後から聞いた。その講師が泣いている間も、他の講師は自分の担当領域に閉じこもって外に出ようとしなかった。

1つ目と2つ目のポイントは、応募者の能力面に目を向けている。加えて、「自社の価値観と応募者の価値観が合致しているかどうか?」を見ることが第三のポイントである。価値観とは、事業や仕事を進める上で絶対に譲ることができない基本的ルールや行動規範、重要な意思決定を下す際によりどころとなる考え方や判断の軸を指す。価値観が違う夫婦が破綻しやすいように、価値観が違う人たちの集まる組織もまた破綻しやすい。よって、採用の段階で社員のベースとなる考え方を揃えておくことは極めて重要である。

以前の記事「【ベンチャー失敗事例(1)】はじめに~経営理念が腹落ちしていなかった【Shared Value】」でも述べたように、3社には「勇気を出して未知の領域に飛び込む」、「決意を持って独自の価値を創りだす」、「多様性の中で志を相互に尊重する」、「内外の知を結集して最高を目指す」、「体現主義を貫くことで深い信頼を築く」という5つの行動規範があった。しかし、採用の段階で応募者がこの5か条と合致する価値観を持っていたかどうかを十分に確かめていないように思えた。もっとも、社員の間でも5つの価値観をめぐる対話が行われておらず、認識が共有されていなかったから、応募者に対して確認のしようがなかったというのが実態であろう。

【ベンチャー失敗事例(1)】はじめに~経営理念が腹落ちしていなかった【Shared Value】

(※)本シリーズは、2013~2014年に前ブログで「ベンチャー失敗の教訓 」シリーズ(全50回)として執筆したものを、「」フレームワークの視点を利用して全7回にまとめ直したものです。 …

「多様性の中で志を相互に尊重する」という価値観は、たとえ真っ向から対立するような考えを持つ人に対してであっても敬意を払い、異なる意見から弁証法的に新しいアイデアを導くことを要請していた。ところが、一部の社員は自分の意見が絶対に正しいとでも言わんばかりに、相手を言いくるめようとする傾向があった。あるいは、自分とは違う意見を聞いている素振りは見せるものの、実際には聞き流しているだけの人もいた。こういう人がいると、会議などで大勢とは異なる意見を持っていても、それを表に出そうという意欲がなくなる。

「内外の知を結集して最高を目指す」という価値観は、3社がシナジーを発揮してトータルソリューションを提供することを社員に求めていた。しかし、ある社員は他のグループ企業のサービスが欠陥品であるかのように扱い、協力してサービスを提供しようとしなかった。一部の人がそういうことを言い出すと、周りの人も他社のサービスがダメなように思い始める。その結果、途中まで進んでいた共同提案の案件も、いつの間にかうやむやになってしまうことが増えた。

応募者がどのような価値観を持っているかを分析するには、「仕事を進める上で大切にしているルールや考え方は何か?」、「今まで重要な意思決定を下した経験はあるか?どんな選択肢があったのか?最終的にはどのような理由でその決断を下したのか?」と質問するのが最も効果的である。ただし、普段から自分の価値観を認識している人はそれほど多くない。そこで、「我が社では『勇気を出して未知の領域に飛び込む』という価値観を掲げているが、勇気を出して未知の領域に飛び込んだ経験はあるか?」などと尋ねてみる。回答内容から、応募者が「勇気」や「未知の領域」といった言葉についてどのように考えているのか、応募者の考え方と自社の考え方には共通点があるのかを探っていく。3社とも、本当はこのような対話を欠かすべきではなかった。

Z社のC社長は直観的な採用をする傾向が強く、何度も手痛い目に遭っている。ある時、C社長は社員と社外の人たちとの親睦を深めるために、「日本酒同好会」を主催した。社外から参加していた人の中には、Z社のあるマネジャーの知り合いで、JRで雑誌『WEDGE』の編集に携わっていた人がいた。当時、Z社の本業とは別に、京都の町家を改装した旅館に個人的に出資していたC社長は、日本文化に造詣が深かったその彼と妙に馬が合ったようだ。C社長は「是非我が社に来てほしい」と彼を口説き落とし、十分な選考プロセスも踏まないままにZ社に入社させた。

Z社は戦略コンサルティングの会社である。Z社に入社した彼が最初に任された案件は、ある情報通信業のM&Aに関するコンサルティングプロジェクトであった。しかし、JR出身の彼にはコンサルティングの経験などないし、雑誌の編集に求められるスキルとコンサルティングに求められるスキルには共通項も少ない。プロジェクトマネジャーは、彼の能力が十分でないと見るや、彼の仕事を全部巻き取ってしまった。

そのプロジェクトが終了してしばらく経った頃、C社長は副業で京都の町家風旅館に投資するだけでなく、Z社の本業のビジネスとして、日本の伝統文化をテーマとした新規事業(この事業コンセプトは私にはよく理解できなかった)を立ち上げようと考えた。そこで、日本文化に詳しいJR出身の彼に白羽の矢が立った。C社長はZ社の子会社という形で新会社を立ち上げ、自らも新会社の株主となってポケットマネーから出資をした。

ところが、事業経営の重責に耐えられなくなったのか、彼はいつの間にか会社に顔を出さなくなった。実は、彼はC社長の知らない間に転職活動をして、別の企業から内定をもらっていたのだ。それを知ったC社長は、自分のポケットマネーが無駄になったことも重なって怒り狂い、「詐欺罪で訴えてやる」と息巻いた。とはいえ元を正せば、彼と1回会っただけで「馬が合う」と思い採用を決めてしまったことが悲劇の始まりであった。

「価値観が合致する」とは「考え方が合う」ことであり、「馬が合う」ことにも似ている。しかし、「価値観が合致すること」と「馬が合うこと」とは、微差でありながら実は大差である。

恋人同士が付き合い始めるかどうかを決めるには、何度も顔を合わせ、話を聞き、行動をともにするものだ。それでも価値観の不一致で別れるカップルの方が圧倒的に多い。価値観が合うと思って結婚を決めた夫婦でも、結婚後に実は価値観が違うことが明らかになり、関係が破綻するケースも増えている。このように、価値観が合致しているかどうかを確かめるのは非常に難しい。企業が社員を採用するというのは、何十年もの雇用関係を伴うパートナーを得るようなものである。そのパートナー探しはやはりいい加減なプロセスで行うべきではない。

以上をまとめると、ベンチャー企業が採用面接を行う際には、突出した能力が1つか2つあるか、変化に対応する力があるか、自社の価値観と合致しているかを評価することが大切である。しかし、3つの条件を満たした人を晴れて採用した後も、油断は禁物である。何度も繰り返すように、ベンチャー企業の方針は頻繁に変更になる。資金に制約があるベンチャー企業は、新しい業務に必要な人材を無制限に増やすことはできない。既存社員を多能工化して対応するしかない。

社員の変化適応力に期待するとともに、企業側も社員の能力の幅を広げる仕組みを持つ必要がある。その仕組みとは、社員の能力を可視化し、社員の仕事ぶりをフィードバックし、能力開発の機会を設けることである。

一般的には、人事評価制度と人事考課面談が社員の能力を可視化し、仕事ぶりをフィードバックするシステムとして機能するものである。X社の人事部長が人事評価制度の構築を自らのミッションとして掲げながら達成できなかったことを、以前の私は随分と責めたものである(「【ベンチャー失敗の教訓(第35回)】人材育成が事業テーマなのに自社には人材育成の仕組みがない」を参照)。だが、中小企業診断士として独立して以降、社員数が50人程度の中小企業を何社か支援させていただく中で、このぐらいの規模の中小企業が人事評価制度を持つことは高望みかもしれないと、考え方を改めるようになった。

ただし、しっかりした制度を持つことは難しくても、制度のエッセンスは現場で実践可能である。例えば、トヨタが運用している「星取表」を参考にしてもよい。自社の現在の事業・業務で必要とされる能力と、将来的な事業・業務で必要になりそうな能力を洗い出し、それぞれの社員の能力レベルを記号で表す。星取表はコンサルタントが得意なパワーポイントで作成すればよいし、極端なことを言えばマネジャーのメモ帳の中に手書きで書かれていてもよい。

そして、マネジャーはその星取表を使い、1か月に1回、15分程度でよいから、簡単にスタッフとの対話の場を設ける。スタッフは、この1か月で自分のどんな能力のレベルが上がり、逆にどんな能力に課題があると考えているかを伝える。マネジャーは、この1か月でそのスタッフのどんな能力のレベルが上がり、逆にどんな能力に課題があると見ているのかを説明する。双方のやり取りを通じて、星取表を更新する。ただこれだけのことで、制度のエッセンスを実行したことになる。制度を運用する特別な人事担当者は必要ない。

能力開発の機会と言えば、普通は教育研修の実施を連想するのだが、中小企業やベンチャー企業で自前の研修体系を持っているところはそうそうない。とはいえ、高業績を上げている中小企業は決して手をこまねいているわけではなく、独自に勉強会を開催したり、外部機関や取引先の研修へ社員を積極的に参加させたりしている。こうした事例は、川喜多喬他『中小企業の人材育成作戦―創意工夫の成功事例に学べ』(同友館、2006年)に詳しい。


勉強会をやってほしいという現場からの要請を受けたX社のA社長は、X社とZ社のコンサルタントを対象に、月1回のペースで勉強会を開くことにした。各回とも、コンサルティングの現場で使うフレームワークを1つずつ学習するのが目的であった。ところが、私のノートに記された記録によれば、この勉強会は2006年10月から2007年3月まで半年間実施されただけである。

再び勉強会の機運が高まったのは、2007年末のことであった。今度はビジネススクールで用いられているケーススタディの教材を使い、もっと踏み込んだ議論を目指すことになった。しかし、この勉強会も、2007年12月から2008年5月の間に5回しか行われていない。勉強会を取り仕切っていたマネジャーが2008年の夏に退職すると、この勉強会も立ち消えになってしまった。

社内勉強会は、とにかくやり続けることが重要である。そして、やり続けるには、準備のハードルを上げないこと、「今回はあまり役に立たなかった」という失敗があっても多少は目をつぶることがポイントになる。X社は本業が教育研修ビジネスであり、顧客企業向けにはリッチなテキストや演習問題を用意し、当日の研修を完璧に運営しようとしていた。顧客企業に対して完璧主義を貫くのは当然なのだが、社内に対しても同じ姿勢で臨んだことがあだとなったように感じる。

今振り返ると、フレームワークを1つずつ学習するというのは、勉強会の入り口としてはそれほど間違いではなかった。一方で、その次にビジネススクールのようにケーススタディをやろうとしたことで、勉強会の講師の準備が一気に大変になってしまった(私を含む参加者側も、MBAのような勉強ができると聞いて、必要以上に期待値を上げてしまったのがまずかった)。

採用の段階で応募者の能力や価値観を評価せず、採用後も十分な人材育成を行わなかったことで、3社とも人材のミスマッチが多発した。経営陣と上手く仕事ができない社員は自ら会社を去っていった。我慢して残り続けた社員も、3社が業績不振でリストラを繰り返すうちに、多くは居場所を失った。3社とも人材育成・人材活用をテーマとして事業を行っていたのに、自社社員の扱いは不得手であった。社員の頻繁な入れ替わりを黙認していたことには、どうやらZ社のC社長の考え方が大きく影響しているようであった。

C社長は普段から、「人材はHire and Fireだ」と口にしてはばからなかった。人材を大量に採用し、合わない人はどんどんクビにすればよいというわけである。その方が採用コストも育成コストも抑えられるという算段だったのだろう。しかし、これだけ人材のミスマッチが続くと、結局はHire and Fireの方が高くついてしまうと、C社長にはどこかで気づいてほしかった。